・ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 (1961年11月13−15日 ウィーンムジークフェラインザール スタジオ録音) 60年代のウィーンフィルの美しくも豊麗な響きを堪能できる名演。 クレツキの解釈も確信に満ちた引き締まった解釈で聴かせます。 演奏時間は新旧録音でほとんど差はありません。 1 2 3 4 IPO: 13:16 8:08 10:42 17:24 VPO: 13:28 8:14 10:42 17:26 第一楽章リピートなし、第二楽章リピート有り。第四楽章495小節のシンバルなし。 使用譜は1906年版(SP1)使用。 私が初めて聴いた「巨人」がこの演奏でした。70年代初めに出た東芝のセラフィム名曲シリーズの千円の廉価盤。 この頃千円の廉価盤で聴けるマーラーの交響曲といえば「巨人」、第4番、「大地の歌」あたりで、だいぶ後になってワルターの第5番のモノラル盤がCBSソニーから1枚もので出ましたが、石油ショックの影響ですぐに1200円になってしまいました。 これとは別にワルター&ウィーンフィルの「大地の歌」がキングの1200円シリーズで出ていたのが異彩を放っていました。 このクレツキの「巨人」を初めて聴いた時に、なによりも喨喨と吹き鳴らすウィンナホルンの雄大な響きに痺れて、毎日のように繰り返し聴いていました。 フィナーレ終盤のクライマックスにある大きなカットは、初めて「巨人」を聴く身にとっては知る由もないことで、今にして思えば、最初に聴いたのがこのクレツキ盤で幸いでした。 他の演奏の洗礼を受けた後では、このカットが大きく気になって、この演奏の本来の魅力を理解することができなかったと思います。 とはいえ今冷静に聞き直してみると、オケの響きは非常に魅力的であるものの、完成度から言えば詰めの甘い部分もあり、第一楽章123小節のティンパニや第二楽章のホルンの一部が欠落していたり、フィナーレの最初にトロンボーンとティンパニが盛大にずれていたりする場面もあります。 ただ、カットを含めたいくつかのマイナス部分を差し引いても、適度なロマンティックさとストイックなまでの厳しさがバランスよく同居した名演だと思います。 第一楽章では、すっきり感情を排した確信のある快適なテンポの中でウィーンフィルの柔らかで豊麗な響きが絶妙なバランスで響いています。倍音の多いウィンナホルンの響きがなんともよい心地です。 ほぼ同時期にウィーンフィルを振った若き日のクーベリックの録音には感じられなかった音の豊かさです。まさにオケの特性をうまく引き出すクレツキの職人芸。 ヴァイオリンが歌う236、276小節あたりに微かにポルタメントがかかります。 厳格なまでに正確な三拍子で迫る第二楽章は、ウィンナワルツ風に陥りそうなオケに指揮者が抵抗しているかのようにも聞こえます。 1906年版に実に忠実ですが、121小節のホルンは入ります。 311小節のホルンの合いの手のA−Gの音がすっぽり落ちているのを、今回の聴き直しで初めて気が付きました。 これはフィナーレのカットと同じくらいに驚きです。 旧盤のイスラエルフィルとの録音にはしっかり入っているので、クレツキの解釈ではないと思います。 第三楽章はさらりと感情を排した淡々とした表現。中間部は速いテンポ。 ウィンナオーボエの妖しい響きも印象的。 第四楽章は速めのテンポまま不動のテンポ感が支配する楷書風。 54小節めのティンパニとブラス群が盛大にずれていました。 175小節のSehr gesangvollの静かに歌うところでもテンポは落とさず粘らずあっさり。 375小節のpesanteから378小節のIm tempoの経過もテンポの変化なし。 終盤まで緊張感を保持していくのはお見事ですが、最後の最後の良いところで痛恨の20小節のカット。 このカットのために大きく評価を下げてしまいました。この部分のホルンの補強はありません。 手持ちは、長い付き合いとなった懐かしのセラフィムの千円盤と、英EMIが出したCDです。 録音そのものは優秀で、ムジークフェラインザールの豊かな残響をしっかり捕えています。保存されたマスターテープに経年変化があったのでしょうか、ウィーンフィルの倍音の多い響きはLP盤に顕著に聞き取れ、CDでは幾分痩せていました。 (2014.09.28) |