「ウイリアム・スタインバーグ(1899 - 1978)」 ケルン生まれ。アーベントロートに指揮を学び、ケルンのオペラハウスでクレンペラーの助手としてキャリアをスタート。プラハのドイツ歌劇場を経てフランクフルト歌劇場の音楽総監督。その後ユダヤ系のためその職を追われ、イスラエルに移りパレスチナ響(現イスラエルフィル)をヴァイオリニストのフーベルマンとともに設立。 第二次世界大戦後はトスカニーニの招きでアメリカに活動の場を移し、NBC交響楽団の指揮者の後バッファローフィルの音楽監督。 1952年から1976年ピッツバーグ響の首席指揮者となり、一時はボストン響の音楽監督も兼ねていました。 スタインバーグはピッツバーク響首席指揮者の就任直後から、アメリカのマイナーレーベルCapitolとComandに数多くの録音を残しています。 スタインバーグのマーラーの交響曲の正規録音はこの「巨人」のみですが、ライヴでは第2、7番の録音もあり、1973年の来日公演では「巨人」を演奏しています。 ・ ピッツバーグ交響楽団 (1955年 ピッツバーグ スタジオ録音) 50年代のCapitolへの一連の録音中の一枚。モノラルです。 第一楽章リピートなし、第二楽章リピート有り、第四楽章495小節のシンバルなし。 1906年版使用ですが、1912年版の要素が多く入る独特の版です。 がちがちに固めた鎧を全身にまとったようなマーラー。 テンポは常に一定、さくさく冷静に音楽は進みます。 譜面に書かれた音は見事に音になっていますが、楽しめるには何かが足りない。 テンポが不自然に速めなのがスケールの小ささも感じさせます。 第一楽章冒頭から速いテンポ。47小節のティンパニのトレモロが欠落しています。 主部へ入る直前の突然の加速が急で不自然。 爽やかであっさり系であるものの、ところどころ走るような落ち着きのなさが感じられました。特に終盤の速さはいくらなんでも速すぎると思いますが、このテンポでのオケの一糸乱れぬアンサンブルはお見事。 第二楽章冒頭のチェロとコントラバスが一本で演奏しているような痩せた響きです。 155小節、326小節のティンパニなし(1906年版以外の特徴)。 あっさりのトリオは1906年型。 236小節のWieder gemachlich wie zuvor(ゆったり落ち着いて)表示の部分も速いテンポで過ぎていきます。 第三楽章のしだいに重層に楽器が増えていくバランスは見事。オーボエは終始控えめ。 時計が時を刻むように図ったような正確なテンポで音楽は進行。 第四楽章では特にティンパニの音が小さいのが気になりました。 150小節からの連続するフェルマータは無視して、ひたすらまっすぐに進軍。 録音は明快ですが痩せていて、ヴァイオリンのトレモロなどテレビドラマ「子連れ狼」の劇中音楽のように小編成に聞こえます。 後半は第一楽章と同様に速めて次第に興奮を盛り上げますが、639小節からのタタタンタタタンと景気付けるティンパニが全く聞こえないので、クライマックスがむなしく不発に終わっていました。 フィナーレ最後のホルンの補強はトランペット、トロンボーン各1本の1912年型。 最後の二つの音はゆっくり終結。 今回聴いたのは「スタインバーグ、キャピトルレコーディング」のセット物CD10枚組、 モノラルながら音は明快ですが、残響少なく音の厚みが不足しているように思いました。 (2014.10.14) |