「サー・ジョン・バルビローリ(1899 - 1970)」 ロンドン生まれ、父はイタリア人で母はフランス人。11才でチェリストデビュー、クイーンズホール管の首席チェロ奏者の後指揮者に転じ、1933年にスコティッシュ管絃楽団の首席指揮者、1936年ニューヨークフィルの音楽監督。 その後マンチェスターのハレ管絃楽団の首席指揮者となり、以後このイギリスの地方オケと深い係りを持つことになりました。 バルビローリのマーラーは定評があり、スタジオ録音は1,5,6,9番があります。 ライヴでは第8番を除き「大地の歌(一部欠落有り)」を含む9曲の録音があり、巨人は以下の2種類があります。 ・ハレ管 1957年 スタジオ録音 ・ニューヨークフィル 1959年 ライヴ録音 他にベルリンフィルとの1970年2月のライヴ録音があるとのネット情報がありますが、 実物未確認。 ・ハレ管弦楽団 (1957年 6月 スタジオ録音) イギリスのPyeレーベルへの録音で、「巨人」のステレオ初録音です。 第一楽章リピートなし、第二楽章リピート有り、第四楽章496小節のシンバルあり。 1912年版使用。 全ての楽器が良く歌い、バルビローリの熱い思い入れの深さが見事に音になった名演。 大きく歌い上げるフィナーレは感動的です。 楽器のバランスでユニークな部分もあり、第一楽章の大きく盛り上がる終結部で木管楽器のかっこうを強調する場面など、思わずスコアでそのパートをさがしてしまいした。 ロマンティックでチャーミング、第一楽章や第二楽章の一部でのユーモラスな表現も自然。ヒューマンな暖かさと情熱の見事な共存。第三楽章の鄙びたコントラバスソロも良い味でした。 第一楽章は主部へ向けて絶妙に加速。主部のチェロは鄙びた響きでゆっくり進行。 縦の線は合わないものの優しく深い愛が感じられます。 339小節から343までの大太鼓のトレモロクレシェンドは、301,302小節のみとしていました。終結部361小節の木管楽器のカッコウをかなり強調。 コーダのテンポの自然な緩急の変化も名人芸。 第二楽章は極端に遅いテンポ。ユーモラスな鄙びた田舎の踊りです。 155,326小節のティンパニはなし。 弦楽器のフレーズが終わりにかかる部分で木管楽器を自然に浮かび上がらせていました。 第三楽章はロマンティックでありながら不気味でシュールな気配が漂います。 57小節の軍楽風のマーチ部分でテンポを早めています。 ここの譜面指示はNicht scleppen(遅くならない) 中間部の、儚く蕩けて擦り寄ってくるような弦楽器の響きは全く独特ですが、嫌味にならないのがバルビローリらしいところ。 冒頭回帰途中の123小節でハープが1小節早く入ってしまい、コガネムシの主題が先行してしまっているのがおかしいと思いました。 142小節からテンポを速めるのはワルターと同じ解釈。149小節のTempo1でコールアングレを大きく浮かび上がらせています。 第四楽章最初の32小節からの8分音符の弦楽器の下降音型の繰り返し部分をしっかり歌わせていました。オケの響きはずいぶんと軽め。 嵐が去り、フェルマータが連続する部分の最終フェルマータの157小節め頭の休止が非常に長く、続いて甘く蕩けるようなポルタメント気味の耽美的な弦楽器の静かな歌が続きます。 493小節の1拍めにシンバル付加。 653小節の木管楽器群のベルアップ指示の部分を大きく強調し、マーラーが視覚的な効果を狙った部分を聴覚的に補っていました。 終盤のホルンの補強はトランペット、トロンボーン各1本 ハレ管の力量は十分とは言えず、第一楽章のヴァイオリンに続くミュートを付けたホルンの音はヨレヨレ、ブラスのパワー不足も気になりますが、全編に漂う甘く切ない歌とロマンティックで心のこもった演奏に、そのうちそのような些細なことはどうでも良くなってきます。 徐々にテンポを速めていくフィナーレ終盤でオケが懸命に奮闘する部分などは感動的でした。 今回聴いたのは、ティチクから出ていた国内盤LPと英PRTのCDです。 CDではダットンラボラトリーのものが出ていますが、PRT盤はダットンラボラトリー創設以前にダットンがリマスタリングしたもの。 残響が少なく乾いた音はこの時期のPYEの録音に共通していますが、LPは音が左右にふらつきかなり悲惨な音です。送られてきたマスターテープに問題があったのでしょうか、後にティチクがCD化し国内で販売したときはモノラルとしての発売でした。 PRTのCDは、LPに比べるとステレオ感は明瞭、音の鮮明さでもCDが上です。 (2014.11.01) |