「巨人を聴く」30・・・・独墺系の指揮者たち  ハンス・ロスバウト その2
・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1955年10月   ベルリン・ホッホシューレ  ライヴ録音)
ベルリンフィル客演時のライヴ。
この時期のロスバウトはドイツグラモフォンと契約し、ベルリンフィルといくつかの録音を残しています。中でも「カレリア」組曲その他のシベリウスの管弦楽曲の録音やハイドンは良い演奏でした。

1896年にベルリンフィルはマーラーの指揮でこのニ長調の交響曲を演奏していますが、ベルリンフィルの50年代のマーラー録音はほとんどありません。

第一楽章リピートなし、第二楽章リピート有。第四楽章496小節めシンバルなし。
1906年版(SP1)使用(あるいは1899年のヴァインベルガー版か)。

1906年版使用と書きましたが、各所に古い時代の演奏の痕跡が残っているように思います。
第1楽章のリピートをおこなっていないところをみると、あるいは1899年のヴァインベルガー社の最も古い出版譜を使用しているのかもしれません。
http://www.numakyo.org/cgi-bin/titan.cgi?vew=27


精神分裂気味のテンポの変化と気分の移り変わりの唐突さが特徴的な演奏ですが、聴いているうちに後の南西ドイツ放送響との余りの解釈の違いに驚きました。
明晰にして速いテンポでオケを豪快にドライヴ。冷徹な中にも熱狂を感じさせる演奏です。

第一楽章の最初のクラリネットの深い響きが印象的。
通常テンポを落しながら主部に入る部分でも減速せず主部へ流れていきます。
主部の100小節めから加速155小節のリピート前で減速。
209小節からのホルン4重奏で急に速め、257小節でぐっと落とした後は自由にテンポを変えていき終盤では猛烈な急加速。

第二楽章冒頭からよどみのなく激しい勢いのコントラバス。
すっきりめのトリオにはワルツにブラックな気配が漂い、後半はかなり速めていました。
続く再現部導入直前のホルンソロはさらに速いテンポ。
続く後半は曲の冒頭以上に速いテンポ。

第三楽章では中間部の優しげな表情の中に世紀末の退廃の気配が忍び入り、78小節からのチェロの単純なのばしの音の強調がスパイスとして利いています。
冒頭回帰する後半はグロテスクなほどの不気味さで始まります。
徐々にテンポを上げていき、140小節めでお祭りのバカ騒ぎのようにテンポを速めるのはワルターと同じ解釈。

フィナーレは冒頭から猛烈な速さで突っ走りますが、弦楽器群がぴたりと付けていくのはお見事。
マーラーの書いた細かな指示を、優秀な外科医の如くバッサバッサと無常なほど鮮やかに処理していきます。

後半457小節でのオーボエの1小節早く飛び出しや終盤のヴィオラによる導入部での530小節あたりから混乱があり、緊張感の連続にさしものベルリンフィルも息切れしたのでしょうか。

590小節で一旦テンポが落ちてからの急加速が物凄く、あまりの早さに聴き手はあっけにとられ取り残されたままに曲は終わります。
終盤のホルンの補強はトランペットとトロンボーン各1本。

正確にしてかっちりと、硬質でメタリックな肌合いの高性能スポーツカーを走らせているかのようなマーラー。

フルトヴェングラー没して間もない頃のベルリンフィルの重心の低い黒光りするような音色も魅力的で、アンサンブルの精度は南西ドイツ放送響に比べると遥かに上です。
第一楽章終盤と第四楽章始めの猛烈な速いテンポの中での弦楽器の動きなど見事なものでした。


今回聴いたのは、MEMORIES REVERENCEから出ているCDです。
ライヴとはいえあまり音は良くありませんでした。
(2015.01.23)