「ピエール・モントゥー(1875〜1964)」 弦楽四重奏団のヴィオラ奏者としてブラームスの前で演奏し、グリーグやドビュッシー、ラヴェルとも親交があり「春の祭典」「ダフニスとクロエ」など20世紀の名曲の多くの初演を指揮した音楽史上に名を残すフランスの大指揮者。 モントゥーのチャイコフスキーの交響曲第5番の録音は、2種類のスタジオ録音のほか多数のライヴ録音があります。 ・1957年4月12日 ボストン響 ライヴ録音 ・1958年1月8日 ボストン響 スタジオ録音 ・1958年5月8日 フランス国立放送管 ライヴ録音 ・1959年7月19日 ボストン響 ライヴ録音 ・1963年5月31日 ロンドン響 ライヴ録音 ・1964年2月 北ドイツ放送響 スタジオ録音 ・ボストン交響楽団 (1958年1月8日 ボストン シンフォニーホール スタジオ録音) 1920年代に経営危機に瀕していたボストン響を救ったモントゥーですが、次期音楽監督のクーゼヴィツキー時代には再び呼ばれることはありませんでした。 クーゼヴィツキーが去り、ミュンシュがボストン響の常任指揮者になると盛んに客演するようになりました。 近年この時期のボストン響とのライヴがまとまってCD化されています。 モントゥーは第5番を好んでいたのでしょうか。最晩年にコンサートホールレーベルへのスタジオ録音もあり、ロンドン響とのライヴ録音も米ヴァンガードによる正規発売用の録音です。 この演奏はRCAヘのスタジオ録音で、同時期に交響曲第4番、第6番の2曲も録音しています。 極めて明晰、妥協と無駄を排した純音楽的な名演でした。 引き締まった厳しい音の中に、華を感じさせるのが素晴らしいと思います。 すべてを知り尽くした大人のチャイコフスキー。 第一楽章冒頭は、速めのすっきりとしたテンポで開始。続くAllegro con animaはさらに速く曖昧さのない音楽が一本の大きな線となりよどみなく流れていきます。 メゾフォルテからフォルティシモへの転換も鮮やかさで116小節の第2主題でテンポをわずかに落とし、330小節のファゴットからクラリネット、フルートへの同じフレーズの受け渡しも見事。 427小節の一つ前で大きくルバートした後のコーダに入ってからの加速もかなりのもの 美しくも清楚な第二楽章は、冷静にして端正なホルンソロで始まります。第2主題の入る前47小節に少しルバート。99小節の「運命」の主題の部分ではボストン響のブラス群が大全開、142小節のクライマックスも雄大に盛り上がります。 第三楽章は対抗配置のヴァイオリンの掛け合いも美しく、30−40小節までのクラリネット、ファゴットの下につける第1ヴァイオリンの三連音符の生かし方も見事。 257小節2拍めヴィオラのラののばしの意味深さなど、さりげない部分にまで神経が行き届いています。陰影をくっきりさせ、ワルツというよりもスケルツォのような趣。 第四楽章も速いテンポ。序奏のピチカートのあとの21,22小節、43,44、45小節の2分音符部分でテンポを倍とし、粘った後に24小節から復帰。 続く主部のAllegroでは58小節め冒頭にティンパニの強打付加。 しだいに加速し、ぱりっと冴えたリズムで快調に盛り上げていきます。 140小節からのチューバはよく歌っていました。 コーダではホルンのファンファーレのあとの230小節からのチェロの収め方が名人芸。452小節での大ブレーキの後、コーダの555小節は加速していました。 今回聴いたのは、モントゥーのRCA録音を集成した箱物CDと、70年代の廉価盤LP. ステレオ初期の録音です。ステレオ初期の録音でさほど良い音でもありませんがCDが聴きやすい音でした。 (2013.09.29) |