「チャイコフスキーの5番を聴く」39・・・・フランス系の指揮者たち、モントゥーその3
今回は1963年、ウィーン音楽祭でのモントゥーのライヴ録音。

・ロンドン交響楽団
( 1963年 5月31日 ウィーン コンツェルトハウス大ホール ライヴ録音)

この日はオール・チャイコフスキープログラムのコンサートで、幻想序曲「ロメオとジュリエット」、ピアノ協奏曲第1番(ソリストはジョン・オグドン)が演奏されています。

この演奏会の模様は良好な状態でステレオ録音されたものの、その後マスターテープが行方不明となり1992年、実に30年ぶりに発見されました。

この演奏会の直前の4月に、モントゥーはロンドン響と初来日し大阪で2回の公演をおこなっています。この時ドラティとショルティが同行しました。

演奏はとても88歳の指揮とは思えない瑞々しさと艶やかさの感じられる名演です。
虚飾を排し、楽譜に書かれたひとつひとつの音にずしりと重い存在感。

フィナーレ最後のトランペットやトロンボーンなどに、ライヴならではの多少の傷はあるものの、第三楽章中間部の速いパッセージでの弦楽器のピタリと合った部分などを聞くと、かなり厳格なトレーニングの成果が伺われます。

ロンドン響にとって、チャイコフスキーの交響曲第5番は日常的なレパートリーであるはずですが、この頃のロンドン響はドラティの指揮で交響曲全曲を含むチャイコフスキーの管弦楽作品を米マーキュリーレーベールに集中的に録音しています。

ここで聞くアンサンブルの精度の高さは、オーケストラビルダーとして名高いドラティの厳しいトレーニングの成果ではないかと想像します。

第一楽章の序奏はボストン響や北ドイツ放送響のスタジオ録音に比べ、幾分遅いテンポで始まります。オケは対向配置。
主部に入ってからは幾分速めてコーダでは僅かに速めていました。

大きく歌い上げる第二楽章は、この演奏で最も聴かせる楽章。
詩情豊かな冒頭ホルンソロはタックウエルでしょうか?
中間部のクラリネットソロの入る前に、弦楽器を微妙に揺らす動きは演歌のコブシをかけるかのようです。
中間部のブラス群が運命の動機を高らかに吹き鳴らす場面の堂々たる偉容には圧倒されます。終盤の165小節目のリテヌートの休符の取り方も絶妙の間。
最後の5小節で少しずつテンポを落としていきます。

第三楽章はおそめのワルツ、中間部のオケの一糸乱れぬ鮮やかな動きはお見事。

第四楽章の序奏は重くならず、飄々とした歩みの中に次第に熱を帯びていくのが名人の至芸。43小節目でのテンポを大きく落としてのブラス群の堂々たるコラールは、実演で聴いたならばさぞや圧倒されたであろうと想像します。
主部に入る直前58小節目のティンパニの一撃はなし。
主部に入り、節度を保った野性味をスパイスに、オケは自由に気持ちよさげに飛翔していきます。
198小節めで再び大きくテンポを落としてブラス群が大きく「運命の動機」を吹き鳴らし、235小節からのコントラファゴットの動きを強調しながら、しだいに演奏のヴォルテージは上昇、聞き手の興奮度もさらにアップ。最後の盛り上がりも老練。

今回聴いたのはヴァンガードクラシクスが出した初出CDです。
ライヴとはいえ楽器間のバランスも良い優秀録音でした。

(2014.12.17)