「チャイコフスキーの5番を聴く」42・・・・フランス系の指揮者たちその2 ポール・パレー
「ポール・パレー(1886 - 1979)」
フランスのルーアン近郊の港町トレポルに生まれる。父は象牙職人でありながら聖ジャック教会のオルガニストやオルフェオ歌劇場の音楽監督を務めた多芸多彩な人。
兄もルーアン音楽院の教授でした。
パリ音楽院で作曲を学びローマ大賞を得た後1923年ラムルー管首席指揮者、1932年コロンヌ管首席指揮者。第二次世界大戦中はモンテカルロに居をかまえ対独レジスタンスにも協力。1952年からデトロイト交響楽団の音楽監督。

・デトロイト交響楽団
(1962年 2月1日 デトロイト、ライヴ録音)
デトロイト響音楽監督時代のライヴ。
パレーのチャイコフスキーは非常に珍しく、他にはエルマンとのヴァイオリン協奏曲の伴奏録音があるくらいです。
この日はジーナ・バッカウアーをソリストに迎えたベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」とメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」が演奏されています。

男性的な豪胆さの中にキチリと形を整えた直截な表現、毅然とした厳しさも感じられる名演です。
速い中に微妙なテンポの揺れが有り、これが淡々と進みながら時折何かを思い出してフッと過去を振り返るようなロマンティックさが感じられて素晴らしいと思います。


第一楽章序奏では休符のひとつひとつに雄弁な意味を持って響いています。
Allgro con anima前のフェルマータは無視して主部に突入。
快速のまま変化もほとんどなく突っ走りますが、ところどころのフォルテのキメ技は見事に決まっています。
第2主題の2度目のフレーズ(121小節目)で微妙にテンポを落としています。

展開部第2主題の抒情的な歌わせ方は熟練の腕前。
コーダの弦楽器のシンコペーションの強調は珍しい解釈。終盤487小節から加速。

第二楽章冒頭の弦楽器の重なった音の憂いを含んだ深い響きと、ホルンが入るまでの自由な呼吸感が素晴らしく、途中から興に乗ったパレーの鼻歌も聞こえます。
45小節からのヴァイオリンの自然の呼吸感と、第二主題の感情を込めた歌もお見事。

第三楽章は素っ気なく軽すぎるかもしれません。ポケーっと聴いている間に終わってしまいました。
72小節からの難所は見事。特に木管楽器群の名技にはアクロバット的快感。
終始速いテンポで、ほとんどの指揮者がテンポを落とす64小節からの2度目のフレーズ部分もそのままのテンポ。

第四楽章では、Allegroに入る前のティンパニが2小節早くクレシェンドしてしまい,
トレモロが波打ってしまって音楽が停滞してしまいます。
その結果Allegroに入る直前のタイミングに混乱が生じヴァイオリンの一部が飛び出してしまっていました。
嵐のように走り抜けるアレグロ。
434小節のmolto vivaceに入る2小節前の金管楽器の雪崩をうったような下降音型での微妙なブレーキが絶妙。
コーダ直前の大休止472小節めModerato assaiの前で曲が終わったと勘違いする聴衆から盛大な拍手が入っています。
最後のホルンとトランペットのファンファーレ部分で急速にテンポを速めていました。

同じフランス人でも重厚さと色気があったモントゥーの演奏に比べると、禁欲的で軽めのチャイコフスキー。
オケのアンサンブルとしては、スタジオ録音の完成度に比べると多少の粗さが気になりますが、聴くたびに新しい発見のある素晴らしい演奏だと思います。


今回聴いたのは前回のモントゥーの57年ライヴと同じDisco Archivaのものです。
多少広がりはありますがモノラル録音のようです。
FM生中継のエアチェック録音で、曲の前後のアナウンスがそのまま入り臨場感がありますが、第一楽章の序奏部分で混信があり人の声が聞こえるのが気になりました。
(2015.05.12)