「チャイコフスキーの5番を聴く」18・・・ロシアの指揮者たち2 ムラヴィンスキーその4

・ ソビエト国立交響楽団
(1949年1月19日 モスクワ音楽院 ライヴ録音)

1998年にBMGジャパンが発売した「ムラヴィンスキー未発売録音集」中の1枚。
1949年録音のムラヴィンスキーとソビエト国立響との組み合わせでは、他にショスタコーヴィチの「森の歌」のスタジオ録音があり、2月6日の演奏とされるグラズノフの交響曲第4番その他のライヴ録音も出ています。

前年のモスクワ放送響の第3楽章の録音と共通する柔らかでロマンティックさが前面に押し出た演奏でした。いわゆるロシアのタイプの典型的な演奏ですが、演奏そのものは非常に高水準。

第一楽章、遅く一歩一歩着実に歩み始めるクラリネットソロは、かなりピッチが低いようです。フェルマータの間の取り方もが長く80小節からの加速はいくぶん唐突。
大きくテンポを落とし甘く歌う第2主題。170小節のMolt piu tranquilloでは嫋嫋と歌います。再録音より柔軟な動きと柔らかな響きでその分厳しさは減退しています。
272小節のトロンボーンが一瞬遅れていました。360小節から加速。426小節で大きく落とし444小節で僅かにルバート、後の録音に比べ不自然。

第二楽章ではヴィヴラートたっぷりのホルンあまりにも音が揺れていて緊張して震えているかのように聞こえました。チェロが入る部分の木管楽器群との絡みが美しく、甘くロマンティックな表情が印象に残ります。120小節からは多少ためらいながらの表情。
後半の149小節からのクライマックスでは一瞬音量を落しタメてからの爆発。
これは比較的伝統的な解釈ですが、ムラヴィンスキーの演奏でこのような解釈はこの録音のみ。

第三楽章は、後のムラヴィンスキーの同曲の録音の中で最も印象が異なる演奏でした。
レガート多様の感情に流された演奏で、緊張感と力強さに欠けていると思います。

引きずるような重さで第四楽章を開始。Allegro vivaceも快速感はありません。
205小節から加速。ブラスの強烈なヴィヴラートはロシアのオケ独特のもの。モデラートアッサイの前の471小節にティンパニの一発付加。
このあたりからが素晴らしい盛り上がり。490小節からトランペットのヴィヴラートは強烈です。

いわゆる苦悩から転じて大勝利のような判りやすい構成で、伝統的な解釈を順守した演奏でした。柔らかで甘く表情豊か、ムラヴィンスキーの他の録音とは曲に対するアプローチが根本的に異なり、孤高の厳しさは感じられませんでした。

第一楽章の最初のブラスの押しつけや426小節の独特の揺らせ方など、後のムラヴィンスキーの演奏に共通した解釈が聞かれる部分もあれば、この録音だけの表現もあり、興味深い演奏です。

テープ収録のためロシアの同時期の音に比べると良い音です。ただ復刻の際のピッチが多少低いように思いました。終演後の拍手入り。

(2011.05.05)