・ レニングラードフィルハーモニー管弦楽団 (1947−48年 スタジオ録音) 1940年代後半のメロディアへの録音。多くの録音が残されたこの組み合わせによるチャイコフスキーの第5番の最初の録音です。 1938年にレニングラードフィルの音楽監督に就任し、ほぼ10年目となった時期の録音。恐ろしいトレーニングがあったかのようなアンサンブルの締め付けはありますが、ソロは自由に泳がせ、オケを完全に自分の手中としています。 シャープにして知情意のバランスが見事に取れた、貴族的な気品と格調の高さを備えた名演でした。 第一楽章冒頭の暗いクラリネットソロはまさにロシアの憂鬱。95小節からの加速の唐突さはソビエト国立響との録音でも感じました。第2主題の甘い歌わせ方も嫌味にならないのがすごいところ。 第二楽章のホルンソロが、適度なヴィヴラートをかけた艶のある明るい響きが絶品。 このソロは数多いチャイコフスキーの5番の録音中でトップクラスのソロです。 この見事なソロは、1959年からレニングラードフィル首席ホルン奏者を務めた名ホルン奏者ヴィタリー・ブヤノフスキーの父にして、ホルンのレニングラード流派の創始者として知られるミカエル・ブヤノフスキーではないでしょうか。 79小節で加速。 自由な歌と自然のテンポの揺れで音楽は流れていきます。ソロ楽器が非常にうまく、独特のバランスで響くブラスセクションのフォルテシモの透明感が最高。 171小節からもほど良いテンポ。弦楽器の密やかなピアニシモも印象的でした。 第三楽章は後の録音ほどは早くありません。甘い歌わせ方はモスクワ放送響との録音に共通しています。この通俗的な甘さは後の録音になるにつれしだいに薄れていきます。 ファゴットソロが抜群のうまさで聴かせます。 第四楽章も若々しい出来ですが、前の3つの楽章に比べ演奏のテンションが低いように感じました。 Allegro vivace最初の小節の1拍めでティンパニのイッパツはありませんが、冒頭にかすかなアクセント付加しているようです。主部からクレシェンドの波がひた押しに押してくる盛り上がりの波状攻撃は実に見事。 コーダ直前470小節のフェルマータはあっさり片付け、499小節めでいったん音量、テンポを落していました。 きりっとした高潔さと19世紀風のロマンティクさが魅力的な名演でした。 意外なことにほぼ同じ時期のモスクワ放送響と国立ソビエト響とのスタジオ録音と大きく印象が異なります。他流試合ではオケの個性に譲ったのでしょうか。 すでにこの時点で、ムラヴィンスキーのこの曲に対する解釈の基準が確立していたことがわかる貴重な録音でした。 今回は日本ビクターの国内盤CDを聴きました。年代の割にはすっきりとした聴きやすい音で、1956年のグラモフォンへのスタジオ録音よりも明快な音です。 (2011.06.11) |