「アルトゥール・ロジンスキー(1892 - 1958)」 ユーゴスラビア生まれのユダヤ系の指揮者。ストコフスキーの招きでフィラデルフィア管弦楽団の副指揮者を勤めた後、ロスアンゼルスフィルやシカゴ響、クリーヴランド響、ニューヨークフィルの音楽監督。 オーケストラビルダーとしての腕は一流で、アメリカのメジャーオケのポストを総なめにし、それぞれのオーケストラのアンサンブルを徹底的に鍛え上げています。 しかし練習は厳格を極め、楽団員の首切りを容赦なく断行したために、オーケストラのメンバーや経営陣から嫌われて晩年は客演の日々を過ごしました。 ロジンスキーのチャイコフスキーの交響曲第5番は3種の録音があります。 ・1939年 クリーヴランド管 スタジオ録音 ・1945年 ニューヨークフィル ライヴ録音 ・1954年 ロイヤルフィル スタジオ録音 ・ ロイヤルフィルハーモニック (1954年10月2,3日 ロンドン ウォルサムストウホール スタジオ録音) ウエストミンスターレーベルへの録音。この組み合わせのチャイコフスキーの交響曲録音は、4番以降の3曲が残っています。 都会的な洗練とスラヴ的な豪快さの見事な融合。パリッとノリの効いた浴衣を着た時のような気持のよさが感じられるオケのアンサンブル。 ロジンスキー得意のチャイコフスキーなだけに手慣れた老練さも感じられます。 第一楽章序奏は野暮なほど鄙びたクラリネットの響きが印象的。遅めの序奏から主部になると速くなります。スキップするようなクラリネットとファゴットの主題がユニーク。 重くないのにどっしりとした充実感が見事。 367小節をピアノとして大きなクレシェンドが個性的。 450小節からのターンタタタタタの8連符はすさまじく、490小節からのコーダ加速。 最後の2小節で遠雷のようにティンパニの音を減衰させて残していました。 第二楽章43小節のチェロは短くアクセント気味。46小節のTempo Tのホルンの ppppをmfとして自然にアニマートへ流れていきます。 100小節めのクライマックスたたみかけるffは強烈で119小節から大きく盛り上り、続く大きな共感に満ちた歌は感動的です。 181小節のチェロでゆっくりと落し。ひとつの物語が終わるような余韻を保って終結。 遅いテンポの第三楽章は、素っ気ないほどテンポの変化がありません。多くの演奏がテンポを落す64小節もそのままスルーしていきます。フィナーレへの伏線でしょうか。 第四楽章の最初は、野性的な本能を理性で抑えたような開始。Allegro vivaceのティンパニのイッパツはなし。 119小節あたりのティンパニの連打から堪えきれずについに感情が爆発。 ここから猛烈に加速していきます。 210小節から315小節まではカット。172小節めの運命の主題が鳴り渡る部分でテンポをぐーと落しブラスが咆哮。 コーダの503小節のsfffのふくらませるようなブウァーンとしたクレシェンドは、非常に個性的です。師匠のストコフスキー直伝でしょうか? オケの徹底的なトレーニングが想像できる、隙のないアンサンブルでがきっちりとした寄木細工のような演奏でした。 今回聴いたのは、行方不明となっていたウエストミンスターのオリジナルテープを探し出して復刻した日本ビクターのCDです。モノラルながらバランスの良い非常に優秀な録音。 (2011.06.21) |