「チャイコフスキーの5番を聴く」22・・・ミトロプーロス
「ディミトリ・ミトロプーロス(1896 - 1960)」
ギリシャ、アテネの聖職者の名門の家に生まれ、生涯独身を通した孤高の指揮者。
驚異的な記憶力の持ち主で、どのような複雑なスコアも一度目を通すだけで暗譜してしまったそうです。ミネアポリス交響楽団(1937 - 1950)、ニューヨークフィルの音楽監督(1949 - 1958)。
ミトロプーロスのチャイコフスキーとしてはニューヨークフィルとの「悲愴」のステレオ録音があり、他にミネアポリス響時代の第2番、第4番の録音もあります。

・ニューヨークフィルハーモニック
(1954年3月27日  ニューヨーク     スタジオ録音)

米コロンビアへのモノラル録音。
この録音終了後の3月29日から4月11月まで、ミトロプーロスとニューヨークフィルはアメリカ各地を巡るツアーに出発し、その中でチャイコフキーの第5番も演奏しています。

ミトロプーロスは曲によって演奏のスタイルが大きく変化するので、感想を書くときにはいつも苦労します。同じチャイコフスキーでありながら「悲愴」の演奏とは大きく印象が異なりました。http://www.numakyo.org/c_tchai6/16.html

切れ味鋭い中にもロマンティックに歌い上げた演奏。大胆にテンポを揺らし時として譜面の強弱指示も無視した独特のチャイコフスキーの世界。

第一楽章序奏16小節のクラリネットソロ部分のデクレシェンド指示をクレシェンドとしてフォルテに至っています。38小節からの主題は軍楽調の速足。104小節のフォルティシモ指示の箇所はぐっとテンポと音量を落しタメを造りながらのクレシェンド。
この演奏の中で、同じような場面がいくつかあります。
170小節からの第2主題もそのままのテンポであっさりと片付けます。300小節からの迫力。381小節からのffとsffの使い分けも見事。終盤405小節で大きくテンポを落としていました。

第二楽章のホルンソロは遅いテンポで甘く自由に情感豊か。続くチェロもぴったり揃った甘い歌。45小節でのTempoTで大きく落としてたっぷり歌います。
76小節のクラリネットソロから非常に速いテンポで進行。
運命の動機の箇所まではテンポを速めて追い上げ99小節のファンファーレでぐっとテンポを落していました。
108小節の弦楽器のピチカートのみの経過句は大きな音でゆっくりと演奏。
続くファーストヴァイオリンとオーボエの大芝居のような大見得の後ホルンが入る部分で急激な加速。

遅いテンポの第三楽章は、219小節の微妙な間からのクレシェンドなど変幻自在の変化。最後はゆっくり物語を閉じるように余韻を持たせて終結。

第四楽章は重苦しく冷静な開始。Allegro vivaceではティンパニの弱いイッパツあり。90小節めからしだいに加速、119小節の民族踊り調の部分では裏拍にアクセントとしユニークな効果を上げています。
指揮者は冷静でありながらオケは次第に熱く燃えていきます。370小節からの加速でスピード感倍増。ここで金管群のバランスに粗さが出ていました。

感情移入の激しいロマンティックな演奏でした。テンポは大きく変化していきますが不自然ではありません。パワーに余裕のあるニューヨークフィルは響きに独特の凄みがありますが、第四楽章の一部でアンサンブルの乱れがあります。各楽器のソロは表情豊かで自由に歌う見事なもの。

今回聴いたのはCBSからのモノラル外盤CD。経年変化で音が丸くなり、ブラスの音も奥に隠れた暗い響きでした。
(2011.07.23)