「ヤッシャ・ホーレンシュタイン(1898 - 1973)」 ウクライナのキエフ生まれ、6歳でウィーンに移住し教育はウィーンで受けています。 1925年からフルトヴェングラーとともにベルリンフィルの指揮者陣に名を連ねるも、ユダヤ系のため国外に移ります。パレスチナ響の指揮者をトスカニーニと供に務めましたが、その後は一定のポストにつかず主に客演の日々を過ごしました。 生涯孤高を貫いたホーレンシュタインは実力の割には録音に恵まれず、メジャーレーベルではEMIに「悲愴」とマーラーの交響曲第4番、デッカへのブルッフのスコットランド幻想曲の伴奏録音くらいしかなく、マイナーレベルではモノラルからステレオの端境期に録音したVOXへの一連の録音のほか、ステレオ期のリーダ−ズダイジェスト社やユニコーンレーベルへの録音などに数点あるだけです。 ・ニューフィルハーモニア管弦楽団 (1968年4月29日 ロンドン キングズウェイホール スタジオ録音) 通販大手リーダースダイジェスト社の会員頒布用の録音。 録音はDECCAの名エンジニア、ケネス・ウイルキンソンを中心にRCAのスタッフがおこなっています。 厳しくも劇的にして哀愁漂う演奏でした。彫琢したオケの響きの中には孤独感のようなものが漂います。 ウィーン育ちのホーレンシュタインですが、悲劇的な展開と粘着質の歌わせ方は、ウクライナ生まれのユダヤ人という素性を思い出させます。 第一楽章のクラリネットソロから暗い開始、テヌート多用。38小節の主部も寂しくも悲劇的に展開。sffの感情移入や感情の振幅の幅が非常に大きい音楽になっていました。 最後はファゴットが先行し最後の4小節からだんだんと遅くなります。 品のある第二楽章ホルンソロでの10小節目から入るファーストヴァイオリンが非常に美しく響きます。弦楽器の哀愁漂う柔らかな音も印象的。 中間部のクラリネットソロは非常に遅いテンポで弦楽器のさざ波の中に溶けていくかのようです。99小節の最初の運命の動機のフォルティシモは遅いテンポで巨大な威容で迫ってきます。最後は止まるかのようなゆったりとした動き。 第三楽章も軽やかな中に一抹の寂しさが漂います。 第四楽章は静けさが支配するユダヤ的な粘着質な音楽、チェロのバランスが大きく序奏を開始。序奏は大きな力を溜めながら突き進みAllegro vivaceへ突入していきます。 64小節でホルンに強いアクセントをかけていました。84小節の弦楽器群のピチカートから加速していきます。 主部も着実なテンポ運びですが、フォルティシモでは妥協のない厳しい音が警鐘の如く鳴り響きます。221小節のトロンボーンの内声部の突然の強調には驚きました。 段階的にスピードアップして破滅のコーダに突き進み、終盤552小節からアチェレランド。 テンポ設定やアゴーギクは異なるものの、ムラヴィンスキーのアプローチに近いものを感じました。 今回聴いたのはCheskyから出たCD。細部まではっきりとした明快な録音です。 複数のネット上では第四楽章7分50秒付近で一部欠落があるとの記述はありますが、私が聴いたCDには欠落はありませんでした。 (2011.08.05) |