「ルドルフ・ケンペ(1910 - 1976)」 ケンペのチャイコフスキーの交響曲録音は、第5番、第6番のスタジオ録音があり、第5番には他に2種のライヴが正規リリースされています。 ・1959年 ベルリンフィル スタジオ録音 ・1964年 ロンドン響 ライヴ録音 ・1975年 バイエルン放送響 ライヴ録音 ・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 (1959年5月2−6日 ベルリン グリューネワルド教会 スタジオ録音) これは大変な名演奏です。端正にして高度に洗練されたケンペの表現と重厚にして各楽器が明快に鳴り響くベルリンフィル。 外面的な効果よりも譜面に忠実に再現しながら聴き手を着実に感動に誘う稀有の名演でした。 第一楽章冒頭から遅いテンポですが停滞感はありません。続くallegro con animaの柔らかな弦楽器の刻み乗りながら、微かな悲哀を漂わせるクラリネットとファゴットのソロも印象的です。弦楽器と木管楽器の対話が意味深く響きます。116小節からの甘い第2主題への転換も鮮やか。Molt piu tranquilloで弦楽器に絡まるフルートを強調。 フォルテシモはベートーヴェンの音楽のような厳しさを伴って鳴り響きます。350小節の弦楽器にルバートをかけていました。コーダで加速。 第二楽章の序奏もたっぷりとした弦楽器で開始、憂愁漂うホルンソロ。続くチェロの旋律も実に雄弁。45小節めから第一ヴァイオリンは柔らかく響きながら頂点ではテンポを速めて流れていきます。 この楽章最大のクライマックスの95小節のトロンボーンとチューバのsfppがこれほど意味深く響いたのは聴いたことがありません。 108小節で、嵐が過ぎ去り、弦のピチカートのみの経過句から主題が再現する部分へはゆっくりじっくりテンポを落して沈潜していきます。最後の4小節で、チェロがわずかにテンポを落すのも絶品。 第三楽章も落ち着いたゆっくりとしたテンポ。 中間部の速いパッセージの後半部分121−124小節の木管楽器と掛け合ういのファーストヴァイオリンがオクターヴのディビジョンで演奏する部分では、ヴァイオリンの人数を極端に刈り込んで木管とのバランスを図っています。179小節のクラリネットソロのルバートにはぞくっとしました。248のクラリネットとファゴットに呼応する弦楽器の後打ちにテヌート付加。 第四楽章序奏は遅くアンダンデ指示ですが、ほとんどアダージョで開始します。 何かが起こりそうな予感を宿しながら進行。 39小節の弦のハーモニーは美しく、52小節のホルンには弦と同じスラー。 Allegro vivaceの主部は快調、一拍目はアクセントなし。 210小節目から加速、ここでの重心の低い弦楽器群は実に見事なもので、さまざまな民族舞曲風の展開も難なく切り抜けていきます。 全編遅めでテンポでありながら停滞感はありません。これといった派手さはないのですが、細かな部分まで実に神経が行きわたり、スコア片手に聴いていて驚きの連続であります。 ベルリンフィルのソロの名人芸と一糸乱れぬ合奏力。弦楽器がひとつの真っ黒な塊になってユニゾンで演奏するフィナーレの最後には鳥肌が立ちました。 今回聴いたのは70年代の国内盤廉価LPです。ステレオ初期の録音ですがさほど不満は感じませんでした。 (2011.10.10) |