「ジークフリート・クルツ(1930〜)」 ドレスデン生まれ、トランペットを学んだ後1945年から生地のウェーバー音楽大学で本格的に音楽を学び、在学中の49年よりドレスデンを中心に指揮活動を開始。 60年ドレスデン国立歌劇場指揮者、71〜75年同歌劇場音楽総監督、75〜83年音楽運営責任者、83〜88年ベルリン国立歌劇場首席指揮者を歴任。 クルツは、伝統あるドレスデン国立歌劇場の音楽監督を若年で就任し、その後も着実にキャリアを積み重ねていますが、東ドイツでの活動が主だったためでしょうか、実績に比べて知名度が低いのが意外な気がします。 ・ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 (1978年1月 ドレスデン・ルカ教会 ライヴ録音) オーケストラの素晴らしい響きと見事なソロに聴きほれる一枚。 フォルテシモも刺激的でなく、手に汗握る迫力や外面的な派手さからは対極にある演奏ですが目立たぬ部分での細かな心配りが物凄く、スコアから深いものを取り出して聴き手に問いかける名演。 第一楽章第一主題は速めのテンポ。188小節のストリジェンドではトランペットの動きを強調しながらのフォルテシモ。展開部でじっくりとした盛り上がりを聴かせます。 再現部427小節からのmolt piu tranquilloに入る前はテンポを落さず、454小節のティンパニの遠くからのクレシェンドも印象的。 第二楽章は、夢を誘うようなヴィオラのヴィヴラートに導かれて名手ペーター・ダムの詩情豊かなホルンソロが聞こえてきます。 17小節のクラリネットソロの合いの手が入る部分の弦楽器群の自然な揺れは神業の域、 106小節のクライマックスに至るティンパニの自然なクレシェンドはいつもながら見事なもの。弦楽器が再び主題を奏する場面の121小節3拍目にアクセント付加。 142小節のAndante mossoで音楽は大きく飛翔していき、153小節のティパニの渾身のffffが強烈な印象を残します。 美しく気品に満ちたワルツの第三楽章は、速いテンポできびきびと進めていきます。木管のソロは相変わらずのうまさ。 旋律の裏でヴィオラ、チェロが意味深く動き音楽全体の隠し味として効いています。 239小節のフォルテシモからすーと自然に力を抜きながらピアノにストンと落ちる部分などもうまいもの。 第四楽章は、柔らかなブラスと渋い弦楽器の響きに乗って開始。22小節の下で支えるコントラバスからしだいに加速し、フォルテも余裕を持って響きます。 46小節のティンパニの強打と、デクレシェンドからクレシェンドへの変転も絶妙なタイミングで入ってきます。140小節から加速。 旋律線の楽器の主役の受渡しも自然で、重層的に積み重なるブラスが着実に興奮を盛り上げていきます。380小節からさらに加速しますが420小節は速くせず、コーダで加速。 さりげなくオケの能力を最大限に引き出したクルツの良い意味での職人芸が光ります。深い余韻と格調の高さが感じられる名演でした。 さらにオケ全体の柔らかい響きのみならず各楽器のソロも素晴らしく、時に演奏全体を引き締めていくティンパニ奏者(ペーター・ゾンダーマン)の存在感は圧倒的なものでした。 今回聴いたのはドイツ・シャルプラッテン原盤のArs ViviandiのCDです。控えめでいてバランスの良い好録音でした。 (2011.11.17) |