「クルト・ザンデルリンク(1912〜2011)」 ザンデルリンクはそのキャリアのごく初期にソビエトに亡命したこともあり、ロシア物を得意としていました。レニングラードフィル初の欧州楽旅にもムラヴィンスキーと同行し、ドイツグラモフォンに交響曲第4番の録音をおこなっています。 交響曲第5番は旧東ドイツのベルリン交響楽団を振った録音があります。 ・ ベルリン交響楽団(現ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団) (1979年9月25〜29日 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) 日本のDENONと旧東ドイツのドイツシャルプラッテンとの共同プロジェクト。 デジタル録音の先駆けであるPCM録音で、第4番、第6番「悲愴」も録音しています。 http://columbia.jp/classics/kono1mai/042.html 上記リンク先の日本コロンビアによるこの録音の苦心談にもあるように、華やかさとは無縁の落ち着いた渋い大人の音楽。 カラヤンの演奏に代表される華麗でダイナミックなチャイコフスキー演奏が一般的だった80年代初めにセールスが伸びなかったのも判るような気がします。ベルリン交響楽団の知名度の低さも大きなマイナスでした。 第一楽章序奏からゆっくりした歩み。地味で渋いオケをじっくり鳴らしていきます。 123小節からの第2主題で聴かせるp<sff>mpのように、ピアニシモからフォルティシモまでのダイナミックレンジの落差もしっかり音になっています。コーダでテンポを速めます。 第二楽章アンダンテカンタービレは、バスの充実した響きに乗って序奏からアダージョのごとくロマンティックにゆっくり歌います。わずかにヴィヴラートをかけたホルンソロは清楚で美しい音。 第三楽章のワルツでは、第一主題がob+fg, Cl+Cl, Cl+Fgの木管楽器の組み合わせを変えながら変転していく音のブレンドの移ろいが美しくも明快。 チャイコフスキーが深く尊敬していたモーツァルトの音楽を彷彿させる典雅さも感じられました。クラリネットの暗く黒光りするような音にはブラックなユーモアが漂います。 ゆっくりやわらかな序奏で始まる第四楽章はトランペットを押さえ気味。50小節で大きくふくらませて次の51小節めでテンポを落していき、序奏最後の一小節でぐっとティンパニの大きなクレシェンドで大きな強打ともにアレグロビヴァーチェに突入。 主部に入ってはあくまでも冷静沈着なチャイコフスキー。 第二主題の130小節から140小節にかけて大きく加速し、終盤のクライマックスは老練に盛り上げていました。 柔らかな響きでゆっくりじっくりと聞かせる落ち着いた演奏でした。華やかなチャイコフスキーとは対極にある演奏ですが、豊かな風格も感じられる名演だと思います。 今回聴いたのはDENONから出ているCDです。デジタル録音の先駆けとなったPCM録音でしっとりとした良い音でした。 (2011.12.18) |