「チャイコフスキーの5番を聴く」34 独墺系の指揮者たち8 カラヤンその3
・ ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1975年10月22日  ベルリン フィルハーモニーホール スタジオ録音 )
カラヤンの同曲の実に5回目の録音。録音は僅か一日でおこなわれました。
この録音はそのままチャイコフスキーの交響曲全集に発展しています。

一気に書き上げた巨匠の一筆といった趣。
幾分表面的で情に流されているかのような65年のスタジオ録音と比べ、すっきりとストレートに仕上げた印象です。
若い頃の65年盤や、このひとつ前のド迫力の71年録音盤に比べると今一つ存在感の薄い演奏ですが各楽器のバランスの精妙さはこの演奏がベストかもしれません。

第一楽章38小節からのAllegro con animaの弦楽器の刻みはすっきり粘らず軽く進行。
65年録音のような張りつめたような入念さは感じられず、さらりと流していきます。
330小節からの再現部からのテンポは遅めで、434小節から幾分テンポを揺らせていくものの感情移入は控えめ。

第二楽章では、さりげなく見事なホルンソロが終わったTempo1前32小節からのチェロのdolce指示の部分の入り方の妖しさはぞくっとするほど。
108小節からの弦楽器群のピチカートのみは、65年録音には聴き手を驚かせるような極端なテンポの変化と強調がありましたが、こちらはテンポの落とし方も含め強弱も標準的。

木管群の美しさが際立つ第三楽章では、クラリネットが旋律を受け継ぐ78小節からテンポを落としながら歌います。木管は倍管のようです。
72小節めのホルン4本のffを極端に強調するのは他のカラヤンの演奏と同じ。

終始ゴージャスな響きとスピード感が支配する第四楽章は、予想通りの展開となりました。
Allegroの主部に入る直前部分のティンパニは、トレモロを微妙に早めに開始。
そして短いクレシェンドからのAllegro vivace一拍目の強打へのタイミングの絶妙さは鳥肌もののもの凄さです。
この部分を聴くだけでもこの演奏を聴いた甲斐があったっというもの。
名手フォーグラーでしょうか。

次々に出てくる民族舞踏的な展開の中での各所で出てくるティンパニの怒涛のトレモロの波状攻撃に否が応でも聴き手の興奮は急上昇。

第三楽章の100小節目で、木管群がピアノで歌う中で弦楽器がピアニシモで支えていく部分の各楽器の完璧なバランスなど凄いものです。
響きが一つに溶け合ってオケ全体がオルガンのように聴こえる瞬間もありました。
70年代半ばのカラヤンとベルリンフィルのコンビがこの瞬間最高の高みにまで達していたことが実感できます。

今回聴いたのは国内盤CD。録音会場はフィルハーモニーホールに変わりました。
イエス・キリスト教会での録音に比べて、広い空間に拡散するオケの響きを十分に捉えているとはいえず、多少潤いに欠けるようです。


(2013.02.25)