「チャイコフスキーの5番を聴く」44・・・・イギリスの指揮者たち サー・マルコム・サージェント
「サー・マルコム・サージェント(1895 1967)」

イギリス、ケント州生まれ、オルガニストと出発し1921年指揮デビュー、ハレ管、ロイヤルリヴァプールフィル、BBC響の首席指揮者を歴任し、プロムスの顔としてイギリスでは絶大な人気がありました。

すらっとした身体とオールバックの典型的なイギリス紳士風貌そのままに、折り目正しいきちっとした音楽が持ち味でしたが、今となっては、窮屈で古めかしさも感じさせることがあります。しかし、時として予想外の外面的な効果を狙った音作りをすることもあり、ツボにはまるとなかなか面白い効果を上げていました。

残された録音では、エルガーやブリテンなどのイギリス音楽やシベリウス、ヘンデルなどがサージェントの持ち味が良い結果を見せた名演奏でした。
特にヘンデルの“メサイア"は、近代オーケストラを指揮した演奏としては、最高の名盤だと思います。

サージェントのチャイコフスキーの交響曲第5番には2種の録音があります。

・BBC交響楽団          1955年  スタジオ録音
・ロンドン交響楽団         1959年  スタジオ録音

他にBBC交響楽団との1940年代半ばのスタジオ録音が存在するとの情報もありますが私は未確認。

・BBC交響楽団 
(1955年4月29日 ロンドン  スタジオ録音)

BBC響首席指揮者時代の、英EMIへのサージェント60歳を記念してのスタジオ録音。

端正にしてスッキリ、曲自体に多くを語らせると思いきや突然の大きなテンポの変化や大胆なカット。
これはなかなか油断ができません。

第一楽章冒頭の大きな揺れや終盤での猛烈な加速、第四楽章で極端に遅いテンポとなるなど、かなり個性的な演奏です。

第四楽章ではメンゲルベルクも真っ青な驚きのカットがあります。


第一楽章冒頭から独特の癖のある動き。
152小節からのun poco animatoは止まりそうなほどの遅いテンポ。

聴かせどころと泣かせどころはきっちり誠実に押さえながらの385小節からのテンポの引っ張りは独特なもの。
427小節のロマンチックな動きも出色。
コーダはすさまじい迫力で加速しています。


第二楽章はじっくり着実、几帳面なほどの楽譜に正確。
きわめて遅い108小節のtempo 1。
119小節でのヴァイオリンのテヌートのさりげない歌い方は良い雰囲気です。

第三楽章は第二楽章の終わりのテンポそのままで入ります。
ゆっくり優しげソフトで正確ですが、個性はあまり感じられません。
重くならず整然とした中間部は静けさが支配。
最後の3小節で大きくテンポを落とします。

第四楽章もかなり遅い開始。
重い序奏ですが緊迫感はありません。
43小節の壮大さはなかなかのもの。
46小節は長く伸ばしていました。

アレグロ直前の長大なティンパニのトレモロが印象的。
アレグロに入ってからのティンパニの一発とクレシェンドはなし。
ここでの緊張感は希薄です。
一歩一歩噛みしめるような着実な歩みにエレガントさは感じます。
弦楽器の動きの細かさには職人的なうまさと几帳面なほどのこだわりを感じます。

ところが遅すぎたテンポに間が持たずに大カットを断行。

210から316小節、472−490小節までのメンゲルベルク以上の大カット。


このような大胆なカットもある異形のチャイコフスキー。
BBC響は見事なアンサンブルで聴かせます。

今回聴いたのは英のLPでモノラルながらしっかりとした音でした。

EQカーヴはコロンビアカーヴ。
(2019.11.17)