「渡邉 暁雄(1919〜1990)」 日本人を父にフィンランド人を母に東京に生まれる。日本フィル、京都市響、東京都響、広島響の音楽監督を歴任。シベリウスのスペシャリストとして名高く、特に日本フィルとはステレオによる世界初の交響曲全集を含めて2種の全集を残しています。 渡邉 暁雄のシベリウスの交響曲第2番は、70年代後半に日本フィル(函館)、80年代はじめにN響(沼津)の実演を聴くことができました。いずれも強く印象に残る名演でした。 LPまたはCDとして発売されたシベリウスの交響曲第2番録音は以下の6種。 ・1961年 日本フィル スタジオ録音 全集録音 ・1972年 京都市響 スタジオ録音 ・1973年 東京都響 ライヴ録音 ・1976年7月 小樽 日本フィル ライヴ録音 ・1976年9月 東京 日本フィル ライヴ録音 ・1981年 日本フィル スタジオ録音 全集録音 1961年盤は世界初のステレオによる交響曲全集録音。 1976年7月の小樽公演盤は日本フィルの自主制作LP、1976年9月の東京公演盤は日本フィル創立70周年の記念ボックス中のもの。 1981年録音は、世界初のデジタル録音による交響曲全集録音です。 他にFMで放送された演奏も何種類かあり、私の手元には1979年の東京都響とのハンガリー公演と1984年に東京フィルを振ったライヴのエアチェックテープがあります。 ・京都市交響楽団 (1972年4月 奈良県文化会館 スタジオ録音) 京都市響音楽監督時代の演奏で渡邉 暁雄としては2度目のスタジオ録音、京都市響としての初スタジオレコーディングでした。 ゆっくりとしたテンポで生真面目なまでに慎重に進めています。響きは軽くパワーはあまり感じません。プロオケ初録音という意気込みが伝わり、相当な練習量を積んだことがよくわかる演奏でした。 第一楽章から非常に遅いテンポで茫洋した幻想的な雰囲気が漂います。 第2主題に至る自然なスピード感。再現部までのクライマックスでは美しくも自然に盛り上がります。再現部の木管群の冒頭回帰への微妙な間も見事。 終結部のa tempo部分ではチューバのみのfpを全パートに広げていました。 第二楽章での木管楽器の小鳥のさえずりのようなトリルの強調など、他の渡邊暁雄のシベリスス録音とはまた異なる絵画的な気分が漂います。101小節のAndante sostenutoの弦楽器と木管のバランスも絶妙。 第三楽章の速いテンポの中にも音楽にはじっくりとした落ち着きがあり、オケにシベリウスの音楽を丁寧に教え込んでいるかのような趣。 155小節のTempo 1の速いパッセージでのブラスは十分吹ききれてないようです。 のびやかなフィナーレではさすがにオケの非力さに物足りなさはあるものの、再現部に入る楽器の受け渡しの部分ではアンサンブルを緻密に整えながらテンポを自然に早めて大きな効果を上げていました。 終盤の上り坂の頂点ではトロンボーンを最大限の音量で高らかに鳴らせ、347小節でわずかに減速した後に、コントラバスとチェロの大きな歩みの中で木管楽器を浮き上がらせながら高揚していく部分などさすがに見事なものでした。 オケの響きは素朴なまでに軽いですが、指揮者とオケの間の大きな信頼関係が爽やかな感動を呼ぶ演奏でした。 今回聴いたのは国内盤CDです。70年代としては標準的な音でダイナミックレンジも各楽器のバランスも水準以上ですが、響きにセピア色のような古めかしさが感じられるのが不思議。 この頃の実演を聴いた方の感想がネットにアップされていました。 http://www12.ocn.ne.jp/~yamaoto2/omoide004.html (2012.09.05) |