「パウル・クレツキ(1900〜1975)」 ポーランドのルージ生まれ。ワルシャワ音楽院とベルリンアカデミーで作曲を学ぶかたわらE.Mlynarskyにヴァイオリンを師事。15歳でポーランドのルージフィルハーモニの団員となる。1923年ベルリンで自作を振り指揮者としてデビュー。 精力的にベルリンで指揮や作曲活動をおこなっていましたが、ユダヤ系のために1933年にベルリンを去り、ミラノで作曲の教鞭を取った後、1937年からロシアのハリコフフィルの音楽監督。1947年にスイスの市民権を得てからは作曲を止め本格的な指揮活動に入ります。ダラス響(1958〜1962)、ベルン響(1964〜1966)、スイス・ロマンド管(1968〜1970)の音楽監督を歴任。 クレツキはメジャーオケのポストには恵まれませんでしたが、レパートリーが非常に広く、モノラル末期から数多くの録音を残しています。 特にマーラーとベートーヴェンの権威とされ、CDで復活したチェコフィルによるベートーヴェン交響曲全集は評判になりました。 クレツキのシベリウスの交響曲録音は1,2、3の3曲の録音があります。 ・ フィルハーモニア管弦楽団 (1955年6月15、16日 ロンドン キングズウエイホール スタジオ録音) 1951年から始まったフィルハーモニア管によるEMIのシベリウスの交響曲録音は、カラヤンの指揮で1955年までに4、5、6、7番の録音が完了し、残った第1番から第3番までの3曲はクレツキにバトンタッチされ1955年の7月中に全7曲の録音が完成しています。 いずれもモノラル録音ですが、クレツキ指揮の第2番のみがステレオでも録音されました。 作曲家らしい冷徹な目で捉えたカチリとしたシベリウス。さりとて血も涙もないわけではなく、第二楽章に聞かせる叙情的な動きなどなかなかのもの。 第一楽章冒頭から落ち着いた開始。最初に現れるホルンのアンサンブルでのデニス・ブレインの吹く一番ホルンが実に見事。105小節から微妙に加速し緊張度アップ。160小節か数小節でフォルテシモからピアニシモに変転する箇所など鮮やかなものです。206小節の木管のトリルの極端な強調で聞き手を驚かせながら poco largamenteに突入し壮大なクライマクスを築き上げていました。 第ニ楽章は非常に速いテンポで情を廃して冷静に進行。あまりにもクール過ぎると感じられ始めた頃の180小節近辺から優しい叙情的な歌を聴かせます。 バランス良く隙を見せずにサバサバと進む第三楽章は、聞き進むにつれて次第に巨大な形となって曲の全貌が姿を見せてくるのが圧巻。 第三楽章から続く第四楽章は編集の跡が明白で、ここで緊張感の持続が突然変わってしまうのが気になります。情に溺れず、一定のテンポ感で非常にきっちりと聴かせつつ149小節からスマートに加速、コントラバスとチェロの機械的なまでに正確な動きが、ここでも次第に巨大な音楽に発展していくのが印象的でした。 妥協を許さない即物的なシベリウス。北欧的な民族性や大自然を髣髴させるような叙情とは無縁の演奏で、好悪は分かれるかもしれませんが純音楽的な名演だと思いました。 オケは弦楽器の優秀さに比べ管楽器がいささかラフで、第一楽章38小節のファゴットの3連符など完全に乱れています。フィナーレの金管楽器のアンサンブルも詰めの甘さが感じられます。 今回聴いたのは、EMIのクレツキ録音を集めたArtist profile シリーズのCD2枚組と、70年代に出ていた東芝セラフィムの廉価盤LP。 CDは、マスターテープの経年変化により響きが丸くなっていました。マスタリングにも丁寧さを欠き、平板で力のない音が気になりました。LPの方がパンチは感じられますが、第三楽章の158小節で音が揺れるなど、最善の状態ではないようです。 (2009.08.22) |