「シベリウスの2番を聴く」60・・・・日本の指揮者たちその2 近衛秀麿
近衛秀麿(1898〜1973)は五摂家の筆頭近衛家の次男として東京生まれ、兄は首相の近衛文麿。

日本人最初の世界的な指揮者でベルリンフィルといくつかの録音を残し、創設まもないNBC響の指揮者陣にも名を連ねていました。

近衛がベートーヴェンやモーツァルトなどの作品を演奏する時には、マーラーのようにその都度楽譜に手を加えるのが常でした。

それらは近衛版といわれ、「英雄」や「第九」にチューバを加えるなど、かなり過激な編曲となっています。

シベリウスは早い時期に取り上げ、1932年と1934年には交響曲第2番を演奏しています。

ちなみにこの曲の日本初演はケーニッヒ指揮新交響楽団で1927年。


晩年のシベリウスの日課は全世界のラジオ番組から流れる自作を聴くことでした。

シベリウスは近衛の振る第2交響曲を聴いて感銘を受け、
1941年に近衛をフィンランドに招待しています。

この時近衛秀麿はシベリウスにも面会し、ヘルシンキ交響楽団を振って交響曲第2番も指揮しています。

その名演をたたえてフィンランド政府から「フィンランド白薔薇十字勲章大十字章」を授与され、以来この曲を演奏するときはいつもその勲章をつけていました。


近衛秀麿のシベリウス録音では「フィンランディア」や「悲しきワルツ」「トゥォネラの白鳥」の録音もありました。



交響曲第2番には映像が残っています。

・日本フィルハーモニー交響楽団
(1970年 4月27日 東京文化会館 ライヴ映像)

分裂前の日本フィル、その定期演奏会の貴重な映像記録。

近衛秀麿の胸にはフィンランド政府から送られた「フィンランド白薔薇十字勲章大十字章」
が見えます。

田舎の雰囲気と大自然の雄大さがマッチング。
ロマンティックにして雄大、スピード感もあり大変な名演でした。

映像で見ると木管は倍管。金管楽器もホルン6本、トランペット5本、
弦楽器もかなりの大人数です。

ところが音を聴いてみるとすっきりとしたバランスの良い響きです。

同じ近衛秀麿の演奏でも、ベートーヴェンが時としてワーグナーのような響きとなっていたのとは対照的な透明な音が鳴っています。

映像を見ているとホルンは確かに6本であるものの基本は4本。

後の2本はいわゆる1番ホルンのアシストというよりも、ごく一部の響きの補助のみ使用しているようです。

ちょうどマーラーの「巨人」の最終版のホルンの編成が7本であるものの、5番ホルン以降がほとんど付け足しであったことと似ていると思いました。
http://www.numakyo.org/cgi-bin/titan.cgi?vew=38


譜面の改変で目立った箇所では、第1楽章の木管楽器による第一主題が終わった後、30小節目のクラリネット2本の部分をホルン4本に替えた部分と、第2楽章の59小節めのコントラバスにチューバを重ねた部分、そして第3楽章の中間部、オーボエソロが入る前に弦楽器の早いパッセージが終わる130小節の2拍目に音を加えているくらいです。

編成の大きさはともかく演奏内容は楽譜に概ね忠実。

1941年のヘルシンキ訪問でも大編成で演奏したそうですが、作曲者臨席の場では極端に譜面に手を加えることは控えたようにも思えます。



第一楽章序奏部分から大きくテンポは揺れます。

30小節目に向けてテンポは減速。

ここでクラリネット合奏をホルンアンサンブルに改変。

39小節のファゴットセクションにホルンのゲシュトップ付加。
242小節の再現部からの大きく音楽が膨らみます。




第二楽章59小節めpoco strigendoの加速の緊迫感が見事。

73小節からのコントラバスにチューバを重ねているようです。
93小節のブラスのfffのコラールでは、ティンパニのクレシェンドのタイミングを遅らせていました。

119小節の木管楽器群と弦楽器のピチカートとのバランスも絶妙。
187小節からの弦楽器が纏綿と歌う聞かせどころはあっさり流しますが、次々に加わるヴァイオリンが美しい響きです。

203小節の見事な歌も印象的。

220小節の>は<>に改変していました。



第三楽章中間部のオーボエソロの入る前、130小節のGP前の弦楽器に2拍目まで音を伸ばしています。

304小節めにトランペット加筆。

第四楽章導入へのブリッジの壮大な盛り上がりが素晴らしいもの。



第四楽章もロマンティックにして雄大。

スピード感も有り緊迫感を保ちながら終盤に向かってヴォルテージが上昇していくのが見事です。287小節のティンパニ有り。

大団円での金管群によるコラールの前のppが印象的。


続く終結部のティンパニはマッケラス盤と同じく大きな改変がありました。

映像で見る近衛秀麿の表情は淡々として無表情ですが、曲への熱い共感が見事に音になった名演でした。




今回聴いたのはTDKコアから出ているDVDです。

モノクロながら音も良く見ごたえのある貴重な遺産。
(2017.01.11)