「クルト・ザンデルリンク(1912〜2011)」 東プロイセンのアリス生まれ、 ベルリン市立歌劇場の副指揮者となりクレンペラー、ブレッヒ、フルトヴェングラーらに教えを受ける。1935年ナチスを嫌いロシアへ移住。以後ロシアでの活動が中心になります。 モスクワ放送交響楽団のアシスタントの後、ハルコフ・フィルハーモニー首席指揮者、 ムラヴィンスキーと並びレニングラードフィル第一指揮者その間レニングラード音楽院指揮科教授。戦後ベルリンフィルに対抗するために創設されたベルリン交響楽団(旧東ドイツ)の音楽監督、 ドレスデン国立歌劇場首席指揮者。ベルリンのポストを離れた後はフリーとなり各地を客演。 2002年引退。シュテファンとトーマスの二人の息子も現在指揮者として活躍中。 ザンデルリンクはシベリウスを積極的に演奏していて、交響全集のほか主要な管弦楽曲作品の録音があります。 ・ベルリン響 1975年 スタジオ録音 ・ロンドンフィル 1989年 ライヴ録音 ・バイエルン放送響 1993年 ライヴ録音 他にベルリンフィルの定演の映像をWOWWOWで放送されていたのを見たことがあります。 ・ ベルリン交響楽団(現 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団) (1974年9月11〜13日 ベルリン イエス・キリスト教会 スタジオ録音) シベリウス交響曲全集中の一枚。ザンデルリンクのシベリウスの交響曲録音は、最初旧西ドイツのレーベルであるオイロディスクに第3番と第5番が録音され(日本では日本コロンビアが発売)、やがて旧東ドイツのドイツ・シャルプラッテン(日本での発売窓口は徳間音工)に引き継がれて、残りの交響曲を録音し全集となりました。 今では交響曲全集としてまとめられて発売されています。 緻密にして重厚、聴きごたえのある正統派の名演でした。オケの幾分暗い響きはシベリウスの音楽に非常に合っていると思います。 第一楽章冒頭から遅めのテンポ。重く厚みのある響きで音楽は雄大に展開していきます。209小節のせつないまでの歌と、ブラスの下から上への湧き上がるような盛り上がりも見事なもの。260小節の再現部は遅いテンポに回帰。 第二楽章冒頭のティンパニは大きめ(指定はmf)に開始。続く弦のピチカートはppから開始(指定はmp)。ファゴットの第一主題に呼応するホルンの49小節4拍目の3,4番ホンにはミュートを付けているようです。 メロディを速いテンポでサラリと流していきますが、低音部の暗い響きが孤独感を助長していきます。 弦楽器が嫋嫋と歌う185小節の前でテンポを落とし。そぉーと入るヴァイオリンの音は異常なほどの美しさ。この部分では水中で絡み合う水草のように各声部は明確に鳴り響きます。229小節の木管の刺激的なトリル(ドンジョンニの哄笑)に続く弦楽器群の鋭いアクセントと超絶的な速いパッセージの対比が印象的。 第三楽章では、50小節のpとppの対比も明確。中間部142小節からのLentは標準より遅めでしみじみとオーボエが歌い、下で支える合いの手のチェロの音も美しい響き。 225小節のホルンはmf指示をフォルティシモとして強調、228小節のデクレシェンドではテヌート気味で流しながら298小節からの4分音符6拍目直前の16分休符をはっきりと区別するという細かさです。 音を割ったトロンボーンを際立たせながらそのままフィナーレへ突入。 第四楽章の第一主題はトロンボーンの合いの手がパリッと決まっています。 37小節のチェロのアクセントもテヌート。 65小節からのa tempo matranquilloから音楽はゆっくりと沈潜。新たに木管が加わる部分ではその木管楽器の音を強調し、147小節から加速して第一主題の再現部分から快調に飛ばします。 262小節のa tempo が第2楽章の変形だったことに、この演奏で初めて気づきました。 終結に向けた長い登り坂でのトランペットソロは控えめでほとんど埋没。 暗から明への変転が鮮やかな転調部分まで遅いテンポで進みます。 トロンボーンとトランペットのファンファーレに続く348小節からの低音弦による歩みでテンポを早めpから開始しつつ輝かしいコラールに突入。 最後の4小節は4拍目で弦楽器の響きのみを残していました。 隙のない音造りと懐の深い表現が素晴らしく、ザンデルリンクのシベリウスに対する共感が見事に音になっていると思いました。 オケの技量は非常に優秀で、ほの暗い響きが北欧風の雰囲気をうまく出していました。 今回聴いたのは徳間音工のLPとBliliant から出ていたCDです。 アナログ録音の良いところが出た奥行きのある響きの美しい良い音でした。 (2011.09.19) |