「ライン」を聴く22 フランス系の指揮者たち4・・・ルモールテル
「エドウアルド・ヴァン・ルモールテル(1926〜1977)」
ブリュッセル生まれ、ブリュッセル音楽院でチェロと指揮を学び1958年から1962年までセントルイス響の音楽監督。このセントルイス響時代に楽団とトラブルを起こし、40人以上の楽団員が辞めています。辞任の後はフリーの日々を過ごしました。

録音は50年代中ごろの米VOXに、シャブリエやドビュッシーなどのフランス音楽のほか、ベートーヴェンやフランクなどの交響曲録音などを残しています。
フリーになってからの録音は少なく、目につくのはモンテカルロ国立歌劇場管とのヘルマン・ゲッツの交響曲やカバレフスキーの「道化師」くらいでしょうか。

軽くなめらかでクリーミーな色彩感と柔らかなリズムはルモールテル独特のもので、特にフランス音楽を演奏した時には大きな強みを発揮していました。
中でもセントルイス響とのプロコフィエフの「スキタイ組曲」と「三つのオレンジへの恋」の米コロンビアへの録音は、煌びやかな色彩と切れ味鋭いリズム感で忘れがたい名演でした。50代の働き盛りで亡くなったこともあり、実力の割には過度に忘れられている印象です。
  
・ウィーンフォルクスオパー管弦楽団
(1950年代   ウィーン   スタジオ録音)
1950年後代後半のVOXへのスタジオ録音です。南西ドイツ放送響との第4番とのカップリング。ステレオです。

軽くしなやかな響きに乗ってオケを大きく歌わせる演奏。若々しい上昇気分が演奏全体に感じられました。オケの編成、特に弦楽器は小さいようです。

第一楽章から速いテンポで開始。弦楽器にわずかにポルタメントをかけていました。
副主題となる93小節で大きく減速し、たっぷりと歌います。ヘミオラの流れの部分で音楽が陽炎のようにユラユラと揺れるのが印象的。
367小節からのホルンの雄大なユニゾン直前で音楽は沈降していきます。次のホルンを朗々と歌わせることを期待していたのですが、意外やホルンは控えめでした。
453小節で音楽の流れが一瞬止まります。

第二楽章はリピートなし。木管重視のバランス。ウィーン風の柔らかな音色でフォルティシモでも刺激的に響きません。
第三楽章も速いテンポで穏やかに軽く流します。23小節からバスのピチカートを強調。終盤の43小節からしだいに減速し後ろ髪をひかれるように終結。

第四楽章は一転して厳しくシリアスな気配。1拍めを引きずるように重々しさを強調。二分の4に入ると3拍目から入るティンパニの音が悲劇的な様相を助長していきます。
ブラスのアンサンブルはよくまとまっていて特に1番ホルンは相当な名手です。
ウィーンフィルからの助っ人でしょうか。
52小節目のファンファーレは木管楽器を前面に打ち出していました。最後の3つ続くfpは最後の小節のみが強くフェルマータを長めに取っていました。

第五楽章はひたすら軽快、オケの乾いて素朴な音色が一層の軽さを感じさせます。
トランペットの音が随分と痩せていました。153小節目からバスを強調。315小節から急激なアチェレランド。

オケの素朴な音色と残響のない録音のために、枯れて老成した雰囲気も感じさせますが、燕が青空を滑空するような切れ味鋭い爽やかな演奏でした。

今回聴いたのはステレオ初期の米VOXのLP。
盤にRVGの刻印が有るSTPL番号のレコードで、ブルーノートの名レコーディングエンジニア、ルディ・ヴァン・ゲルダーが手がけたものです。
細部はクリアですがジャズの音の採り方はオケの録音には合わないようです。
音は残響少なめで音が固く痩せた音で鄙の雰囲気を助長しています。
(2011.12.08)