「ラインを聴く」24 独墺系の指揮者たち ヘーガー
「ロベルト・ヘーガー(1886〜1978)」
ストラスブール生まれ、父はストラスブール市立歌劇場のチェロ奏者。指揮と作曲をマックス・フォン・シリングスに師事。バルメン、ウィーンフォルクスオパーなどの歌劇場の指揮者を経て、クナッパーツブッシュ音楽監督下のバイエルン国立歌劇場の第一指揮者、後にベルリン市立歌劇場の第一指揮者。
1957年から1961年までハンブルク交響楽団常任指揮者。

ヘーガーはオペラ現場の下積みからの叩き上げの典型的なカペルマイスターで、活動の場はほとんどオペラハウスに限定されていました。
録音はオペラや歌曲の伴奏が多く、単独の器楽曲の録音はゴルトマルクの「田舎の結婚式の交響曲」や、放送録音とおぼしきオーストリア放送響とのハイドンの数曲の交響曲ぐらい。
国内盤ではLP期に出たシューベルトの劇付随音楽「ロザムンデ」全曲盤や、フルトヴェングラー指揮とされていたギーゼキングとのグリーグのピアノ協奏曲の伴奏録音くらいでしょうか。

・バンベルク交響楽団
(1960年代   スタジオ録音)

遅めのテンポで悠然と進めた中に、職人的なバランスの良さと適度な緊張感のある演奏でした。着実にキャリアを積み上げてきた人物の長い年輪が感じられる深い味わいのある演奏です。
マーラー版を基本としていますが、楽器の刈り込みはヘーガー独自の部分もあります。

遅いテンポの第一楽章冒頭から弦楽器の細かな刻みをひたすら正直に強調。
62小節からのホルンを一小節遅らせて木管楽器と呼応させていくおなじみのマーラー版の改変有り。141小節めでテンポを大きく落とした後に続く第一主題を大きく歌わせていきます。
182小節で突然の強いアクセントや245小節の低音弦楽器のsfpを大きく浮かび上がらせるなどの個性も見せていました。
273小節の木管楽器の動きにホルンを重ねる部分はマーラー版にはない改変ですが、ワルター、トスカニーニが実践。281小節のトランペットのカットもヘーガー独自のもの。

367小節のホルンの聴かせどころはpで開始し、木管楽器を浮かび上がらせながら深い霧の中から実体を表すかのようにクレシェンドしていきます。
411、565小節の旋律にはトランペットを重ね、570小節のトランペットもオクターヴ上げてドラマティックに終結。

素朴で穏やかな第二楽章はマーラー版を基本としながらかなりヘーガーの手が加わっていました。9小節めのオーボエはカットしていましたが、マーラー版で聴かれる17小節からの木管楽器のカットはなし。25小節からは木管楽器をカット。74−76小節のホルンもカット。
92小節のpoco ritからa tempoへの変転が絶妙で、これはお見事。
第三楽章も第二楽章の延長のような雰囲気。弦楽器の渋く素朴な音が印象に残ります。

第四楽章は悲劇的な壁が次々と通り過ぎていきます。21,22、45小節のティンパニのトレモロをカット。53、57小節のファンファーレはトロンボーンにトランペットを重ねていました。最後の3小節でホルンの2分音符にアクセントを付加し強く二つに切り、鐘の響きのように余韻を持たせていました。

第五楽章の最初の7小節は管楽器を全てカットし、室内楽的な響きの美しさを強調していきます。遅いテンポの中で旋律の絡み合いが実に明確。特に内声部のヴィオラを強調していきます。
終盤になるにつれ楽器の厚みが増していきます。322小節ではヴァイオリンの旋律にホルンを重ね盛り上げていきます。

似ても焼いても食えないような頑固さには不器用さも感じますが、聴き進めていくにつれてじわりと感動が湧き上がっていくような演奏です。バンベルク響の渋く堅固な音色も良い雰囲気。

今回聴いたのはDENONから出ていた家庭向けの名曲シリーズもののCD。
元はオイロディスクの音源でおそらく1960年代前半の録音です。
渋く鳴らない響きはバンベルク響の音の特性かもしれませんが、音そのものに経年変化によって生じた歪のようなものを感じました。第一楽章後半は音が左右にふらついていました。
(2012.02.11)