「ラインを聴く」4・・・「ライン」について
ライン川はアルプスの支流から、ドイツとフランスの国境を北に流れ、ボン、ケルン、デュッセルドルフなどを通り、オランダのロッテルダムから北海へと注ぐ大河川です。

1850年に40歳になったシューマンは、ライン川沿いの町、デユッセルドルフのオーケストラと合唱団の音楽監督として招かれ、ドレスデンからデユッセルドルフへ移住します。
シューマンは19歳の時、ライプツィヒ大学からハイデルベルク大学に移る際に「ライン」地方を旅したことがありました。ライン川はいわばシューマンにとって若き日の幸せの象徴でした。

慢性的な精神疾患に悩み落ち込んでいたシューマンにとって、デユッセルドルフへの移転は大きな気分転換となり、チェロ協奏曲や交響曲第3番「ライン」などの名作を生み出しています。

交響曲第4番が交響曲第1番「春」に次いで作曲された2番目の交響曲なので、交響曲第3番「ライン」はシューマンが作曲した最後の交響曲になりました。

「ライン」という標題はシューマンの死後つけられた標題ですが、収穫の秋を連想させる明るく生き生きとした牧歌的な音楽は、明るく風光明媚なライン川地方の風景を連想させます。そして、ベートーヴェン以来の古典的なソナタ形式としての交響曲を、自由な発想で発展させたロマン派を代表する交響曲です。

曲は描写的な組曲風の5つの楽章で構成されています。
各楽章にはイタリア語の速度記号ではなく、ドイツ語で曲の性格を表す言葉が添えられているのが特徴です。

第1楽章、Lebhaft(生き生きと)

ベートーヴェンの「英雄」交響曲と同じ変ホ長調4分の3拍子で、序奏もなくいきなり力強い第一主題から始まります。
3拍子の曲の連続した2小節が、2拍子の曲の3小節であるかのような音型となるヘミオラの技法の主題があたかもライン川の大きな流れのように歌われていきます。
第2主題はオーボエとクラリネットで短調で、この主題が続く展開部の中心主題となります。長い展開部の続くと、やがてホルンの雄大な強奏で第一主題が奏でられて再現部が始まります。

第2楽章:スケルツォ  Sehr mäßig(きわめて中庸に)

作曲当初「ラインの朝」とシューマンが名づけた穏やかな楽章。
後にワルツに発展する南ドイツの3拍子の民族舞曲レントラーの様式で書かれています。
歌曲「ライニックの6つの詩」作品36にその片鱗が聞こえます。主部はライン民謡「葡萄酒の国ライン」の旋律から。

第3楽章:Nicht schnell(速くなく)

弦楽器と木管楽器を中心とした平穏な音楽。ヴィオラの伴奏に乗ってクラリネットとファゴットがロマンティックで美しいメロディを歌います。

第4楽章: Feierlich(荘厳に)

シューマンは作曲当初「荘厳な儀式の伴奏で」と記していました。
壮麗なケルン大聖堂から霊感を得て作曲されました。
シューマン晩年の精神の不安定さから来る孤独感が漂い、トロンボーンを中心とした金管楽器群のコラールがあたかもパイプオルガンのように響きます。
全編明るい色彩の中で、この楽章だけがバッハの音楽を連想させる荘厳で沈鬱な音楽となっています。
主題は後のレクイエム作品148でも使われ、歌曲集「詩人の恋」作品48の第6曲「ライン聖なる流れに」のピアノ伴奏にも聞かれます。

第5楽章 Lebhaft(生き生きと)

前の楽章から一転、明るく楽しい収穫の祭りの音楽です。
主題は歌曲集「詩人の恋」作品48の15曲「古い童話の中から」から。
拍子感とアクセントを微妙にずらせた主題の歌わせ方はシューマン独特のもの。
途中第4楽章の旋律がいくつか登場します。終盤では金管楽器の輝かしいファンファーレが鳴り響き、華やかな気分のうちに曲を閉じます。
(2011.04.19)