「ブルーノ・ワルター」(1876〜1962) ワルターのシューマンは、第4番に2種の古いスタジオ録音がありますが「ライン」の録音は1種類のみ。 マーラーの弟子であったワルターの演奏は、マーラー版のアイディアを随所に取り入れていました。 ・ ニューヨークフィルハーモニック (1941年2月4日 ニューヨーク スタジオ録音) 1939年にナチスドイツのユダヤ人迫害を逃れてアメリカに亡命したワルターは、米CBSと契約。1941年から1962年のステレオ期までの録音を残しました。 この「ライン」は、同年1月の「英雄」に続くワルターのアメリカ時代最初期の録音です。この演奏は一日のセッションで録音され、さらに同日は「モルダウ」とドヴォルジャークの「スラヴ舞曲第1番」も録音されています。 ロマンティックにして雄大、音楽に若い力が漲る威風堂々たる名演です。アメリカ永住の意思を固めたワルターの心意気。 第一楽章の開始からトランペットとティンパニはしばらくカット。(マーラー版 以下Mと標記)。 トウトウと大河のごとく流れる音楽、55小節から満を持して入るティンパニの大きなクレシェンドが効果的。(M) 62−67小節の旋律がお互いに呼応する部分では、最初に出るホルンの旋律を1小節後ろに異動させ、ホルンが異動した空白部分は第2ヴァイオリンで旋律を補強(M) 122小節のアクセント指示をテヌートとし、163小節で一旦減速しタメを作りつつ大きな坂を上り始めます、ここからが素晴らしい推進力。 215小節からの木管から弦楽器へ十分に歌わせながら旋律を受け渡していくところなど実に見事。 280−290小節でホルンに旋律線を重ねるのはワルターのアイディア。 310小節から3,4番ホルンによる旋律強化(M)。 313小節のファゴットにもホルンを重ねています。(M) 367小節からの雄大な4本のホルンの旋律は、通常ではフォルテで英雄的に盛り上がる部分ですが、ワルターは弱音で開始させ しだいに巻きながらクレシェンド、フルートを絡めつつ神秘的な盛り上がりを演出。 マーラー版のこの部分はホルンをゲシュトップとさせて弱音から始めていますが、 ワルターはゲシュトップはさせていませんでした。 400小節から加速し大きなクライマックスを築きます。 411小節から420小節までトランペットに旋律を吹かせています。(M) 563−568小節もトランペットによる旋律強化。(M) 第二楽章は遅いテンポでじっくり聞かせます。 19小節から一部ピチカートに改変、(一部M) 第一主題を34−35、74−75小節の1番ホルンのきつい高音はカットさせ、 クラリネットの旋律を浮き上がらせていました。 これはワルター独自のアイディアのようです。 104小節でテンポを落し大きなクレシェンド。 62−63小節の弦楽器に大きなテヌートをかけながら揺らせていく部分にはヨーロッパを離れ故郷を思うワルターのノスタルジーが漂うようです。 115小節のウラ拍のヴィオラにチェロを重ねる。(M) 第三楽章は速いテンポ。 15−16小節の3,4拍目のヴィオラをピチカート(M)としています。 木管楽器と弦楽器の絡みが非常に美しく響き、35小節の3拍めに多少タメはありますがマーラー版で付与していたフェルマータはなし。 第四楽章はホルンやトロンボーンの高音がかなり苦しげで、トロンボーンなどは危うくひっくり返りそうになっています。 520小節のワーグナー風のファンファーレでは 1拍めのトランペットの音型をトロンボーンと同じように改変(M)。 第五楽章冒頭はテヌート気味のフォルテで堂々と開始していますが、マーラー版はピアノ指示。 最初のホルンの大部分はカット。ティンパニもカット(M) 65小節で減速した後、90小節から加速。 110−120小節のカノン風の絡みではひとつひとつの声部を見事に響かせていました。 150小節ではトランペットを旋律線で重ね152小節で大きく減速し、たっぷり歌い上げた後に230小節から加速。 245小節からテンポを段階的に変化させつつ息詰まる興奮を盛り上げます。 255小節でテンポを微妙に落し、265小節でティンパニに大きなクレシェンドかけながら最後のスパート開始。 315小節では3、4番ホルンに旋律を吹かせていました。(M) 315−317小節のホルンの上昇音型はトロンボーンとトランペットを重ねる。(M) 随所にマーラー版のアイディアを取り込みながら、ワルター独自の改変も各所で聴かれます。 今となっては古いタイプの演奏ですが、あたかもブラームスの交響曲のような古典的にしてロマンティックな雄大さを感じさせる名演でした。 今回聴いたのは、70年代にCBSソニーから出していた「ワルター不滅の1000」シリーズのLPと米ブルーノ・ワルター協会のLP。 そしてASディスクとHistryから出ていたセットものCDの4種類です。 SP録音期の復刻でいずれも音としては良くありません。音の重心の低さと力ではワルター協会のLPが優れていますが、楽章間の残響を早めにカットしているのが大きなマイナス。国内盤LPは高音強調気味。CDではASディスクの音が良い音でした。 (2011.05.16) |