サー・エードリアン・ボールト(1889 - 1983)」 今回は「惑星」の初演者として名高いサー・エードリアン・ボールトです。 イギリスのチェスター生まれ、少年時代にシュタインバッハの指揮のロンドン響によるブラームスの演奏を聴いて指揮者になることを決意。ライプツィヒ音楽院に留学し大指揮者ニキシュに師事。1914年からロイヤル音楽カレッジの教授、1930年から創設まもないBBC交響楽団の音楽監督を務め、その後1950年から引退する1979年までロンドンフィルの音楽監督、会長を務めたイギリス指揮界の重鎮。 ボールトのシューマンはステレオ初期の交響曲全集があります。 ・ロンドンフィルハーモニー管弦楽団 (1956年8月21−24日 ロンドン、ウォルサムストウアッセンブリーホール スタジオ録音) イギリスのレーベルPyeによる交響曲全集録音中の1枚。この演奏もシューマン没後100年に合わせて録音されたのだと思います。 両端楽章の目の回るような速さに驚きました。特に第1楽章の尋常でない速さは、モダン楽器での演奏としては最速の演奏ではないでしょうか? 第一楽章冒頭から別の曲かと錯覚しそうなほどの速さです。キビキビとした音楽運びの中にノーブルな空気が漂います。sfをしっかり鳴らしつて音楽の流れの中に大きなアクセントを構築。457小節の木管楽器群の旋律の下でコントラバスがさりげなく<>を強調しています。テンポは一定、バランスも良く力みのない自然体の演奏。 第二楽章もメロウで太い音。重くならず馥郁たるロマンの香りが漂います。 この演奏では第三楽章に最も感銘を受けました。 見事なほどの弱音のコントロール。短い8分音符につける<>を情感のニュアンスも正確に表現。最後の4小節でテンポを絶妙に揺らせながら着地するところなど、ぞくっとするほど凄いものです。 宗教的な静けさ漂う第四楽章は、2分の3に入ってからのチェロとコントラバスの盤石の安定感、隙なく次第に発展していく厳しくも深い音楽。 第五楽章も猛スピードで開始、風が吹き抜けるような爽やかさにはピリオド演奏の先駆けのようにも聴こえます。後半はトロンボーンが音を割りながら激しいクライマックスに駆け上がります。 中間3楽章のじっくりとした歌い上げと、超特急で駆け抜けた両端楽章の対比。 このようなテンポでも雑にならないのがさりげなく凄いと思います。 ステレオ最初期の録音。手持ちの音源は1970年代にテイチクが出した国内盤LPです。 使用したマスターテープの状態が良くないようで、ステレオとは言いながらも分離は定かでなくヒスノイズも盛大に入っている悲惨な音。 (2011.07.19) |