「ラインを聴く」26 独墺系の指揮者たち3 スイトナー
「オットマール・スイトナー(1920〜2010)」

インスブルック生まれ、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院で指揮をクレメンス・クラウスに師事。1942年インスブルックのチロル州立歌劇場でデビュー。ピアニストとして活躍した後、レムンシャイト市、ファルツ管の音楽監督の後、東ドイツに移り、1960年からドレスデン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場の総監督を歴任。
1971年初来日。

N響名誉指揮者としておなじみのスイトナーは、東ドイツ崩壊後健康を害し1991年ベルリン国立歌劇場総監督を辞任。その後完全に引退。一時は消息も不明となりさまざまな憶測が流れました。

2007年にスイトナーの息子の映画監督イゴール・ハイツマンのドキュメンタリー映画「父の音楽、指揮者オットマール・スイトナーの人生」が公開されました。
その中で、パーキンソン氏病が原因で引退したことをスイトナー自身が語っています。

この中で、スイトナーの指揮姿を見たいと願う息子ハイツマンのためだけのために、引退後のスイトナーが再び指揮台に立ち指揮する場面が出てきます。
オケは、ホルンのバイグレほか彼を慕って集まったベルリン・シュターツカペレのメンバーたち。曲はモーツァルトの交響曲第39番と、J.シュトラウスのポルカ「とんぼ」。
これが実に感動的でした。

シューマンはベルリン国立歌劇場管弦楽団を振った交響曲全集録音があります。
中でも第1番は、通常と異なる調で始まる第一楽章冒頭ファンファーレが印象的な原典版を使用した録音として話題となりました。

・ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(1986年6月26,27,30日、7月1,2日 東ベルリン キリスト教会 スタジオ録音)
日本コロンビアとドイツシャルプラッテンの共同制作によるシューマン交響曲全集中の一枚。

ロマンティックにして雄大、透明で結晶化されたオケの響きも美しい素晴らしい名演でした。
第一楽章の57小節のホルンのユニゾン直前や、フィナーレのクライマックスの前にティンパニのクレシェンドを付加していますが、特に楽譜に手は加えていませんでした。

第一楽章からゆったりとした巨匠のテンポの中で大きな音楽が広がっていきます。
各所で聴かれるホルンの強奏も心地よいもの。ティンパニとトランペットのタイミングの良い入りが音楽に適度な緊張感を与えています。最後にテンポを大きく落とします。

間奏曲的な軽い扱いの多い演奏の中で、第二楽章の存在感が大きいのがこの演奏の特徴です。細部のちょいとした力の抜き方が絶妙で、木管と弦楽器の溶け合った美しい響きも印象的。後半で雄大に盛り上がっていました。

第三楽章は平和な田園風景の中で遊ぶ幼き日の思い出のような懐かしさ。
壮大な大伽藍が立ちはだかるような大きな広がりとオルガンのように一体となった響きに満ちた第四楽章は、息の長いクレシェンドの中に宗教的な雰囲気に満ちています。
最後の小節をfpではなくpで終わらせていました。

第五楽章はゆったり堂々たる開始の後に次第に加速。255小節のファンファーレでテンポを落とし重くひきずるように続けていきます。
終盤は感動的に盛り上がります。
特に289小節のティンパニのクレシェンド付加は非常に効果的でした。最後は加速して終止。

テンポは遅めですが、透明な音の響きの美しさの中で音楽に停滞感はありません。
重厚さと軽妙さが絶妙なバランスで共存している名演奏でした。

手持ちの音源は、日本コロンビアが出していたCDです。
録音も良く、第ニ楽章の木管楽器の絡みや弦楽器と管楽器が一体となって溶け合った響きや、第三楽章で弦楽器が消えていく中でオーボエのみが残る音の美しさも忠実に再現していました。
(2012.05.20)