「ラフマニノフの2番を聴く」38・・・ラトル

サイモン・ラトル(1955 - )」

リヴァプール生まれ、打楽器と指揮を学び1974年ジョン・プレイヤー指揮者コンクール優勝。1980年からバーミンガム市交響楽団の芸術監督に就任。2003年からアバドの後任としてベルリンフィルの芸術監督。

ラトルは、バーミンガム市響の芸術監督時代の1987年に沼津でも公演を行いました。
その時のプログラムは、ベルリオーズの「ベアスとベネディクト」序曲、
ブリテンの「鎮魂交響曲」、マーラーの「巨人」、アンコールはバーンスタインの「キャンディード」序曲というものでした。客の入りは寂しいものでしたが、私はやる気十分のオケを思うがままにドライヴする躍動感溢れるフレッシュな指揮姿に強烈な印象を受けました。

ラフマニノフの交響曲第2番にはロスアンジェルスフィルとのスタジオ録音があり、また
1990年のベルリンフィルとの海賊盤ライヴもあります。

・ ロスアンジェルスフィルハーモニー管弦楽団
(1984年1月2&3日、ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン、スタジオ録音)

今回聴いたのはEMIの国内盤LPでラトルの録音歴の中では比較的初期の録音です。遅めのテンポでオケを豊麗に鳴らしながら推進力にも不足せず、知と情のバランスがよくとれた演奏でした。

表情豊かでたっぷりとした第一楽章序奏に続くAllegro moderatoでは、主題の登場直前2小節間のコントラバスのピチカート強調が印象的。練習番号13からしだいに加速、練習番号15からのテンポを揺らせながらのためらいがちな歌わせ方、一転して練習番号17からの豪快にオケを鳴らす部分など、要所要所で細かな変化を聴かせます。最後の4小節で大きく減速、最後のティンパニあり。

荒々しいほどの速いテンポで駈け抜ける第2楽章は、この演奏中で最も個性を示した演奏だと思います。荒馬が原野を駈け抜けるようなスポーツ的な快さを感じさせ、続くModeratoの大きな広がりと止まりそうなほど遅いCon motoの両端部分との対比も見事なもの。

第3楽章は一転して遅いテンポで開始。標準的な演奏時間は13分程度で演奏するところをラトルは16分01秒、プレヴィン&ロイヤルフィルの17分01秒は別格としてもこれは遅い部類の横綱格。このテンポでも音楽は弛緩することなく落ち着いた静けさを漂わせながら流れ、終盤の練習番号53からの弦楽器の叙情的な美しさも印象に残ります。

第4楽章も遅いテンポで進行しますがもう少し速いテンポの方が効果的だったようにも思います。練習番号69からの第3楽章再現部部分から次第にテンポを速め、緊張感を高め、piu mossoからさらに加速して大きなクライマックスを構築。

いささか強引にドライヴした印象もありますが、オケをよく鳴らし知的で均整のとれた名演でした。


(2006.10.29)