「ラフマニノフの2番を聴く」39・・・デプリースト
「ジェイムズ・デプリースト(1936 - )」

アメリカ、フィラデルフィア生まれ。ペンシルバニア大学にて経済学や科学の修士号を取得した後、フィラデルフィア音楽院で作曲と指揮を学ぶ。1962年小児麻痺(ポリオ)にかかり両手足が麻痺。翌年には克服。1964年ミトロプーロス国際指揮者コンクール優勝。

1965年、ニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者。1969年にはヨーロッパデビュー。その後カナダ・ケベック交響楽団音楽監督、アメリカ・オレゴン交響楽団の音楽監督、モナコ・モンテカルロフィルハーモニー管弦楽団主席指揮者などを歴任、2004年秋からはジュリアード音楽院音楽監督。2005年4月から東京都交響楽団(都響)の常任指揮者。

デプリーストは13の名誉博士号を持ち、2005年にはアメリカ国民芸術勲章受賞を受賞しています。コミック「のだめカンタービレ」第12巻では実名で登場していました。

ラフマニノフの交響曲第2番は、2つの録音があります。
・オレゴン交響楽団   1987年 スタジオ録音
・東京都交響楽団    1994年 ライヴ録音

今回は都響とのライヴ録音を聴いてみました。

・ 東京都交響楽団
(1994年11月17日   東京文化会館 ライヴ録音)
デプリースト都響初登場となった定期演奏会のライヴ録音。現在fontecから発売されているCDです。当日はリンパニーのピアノで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番も演奏されました。

オケの自発性に任せながらの自然で無理のない音楽の流れと厚い響き、そしてヒューマンな暖かさも感じられる名演です。90年代以降では珍しいカット版による演奏でした。

第一楽章の序奏からのびやかな音楽が鳴り響きます。練習番号2から大きなタメを造り主部のAllegro Moderatoは遅いテンポで進行。随所に現れるホルンのゲシュトップが明確。練習番号20の4小節めからテンポを落とし続くModeratoから僅かに音量も落としためらいと迷いを表現。

第二楽章ではmoderatoの19世紀風のロマンティックさが印象的。練習番号31の11小節からのホルンにゲシュトップ付加。中間部Meno mossoは重量感を感じさせる遅めのテンポで進行。練習番号45から減速しTempo Iで速めてサラリとした後味の終結。

第三楽章ではヴァイオリンの一音一音を明確に区切り、軟弱な甘さではなく毅然とした気品が漂います。練習番号51の9小節に大きなリタルランド、見事なヴァイオンソロは矢部達哉でしょうか?練習番号53から55の前までの通常のカットはなし。ここでの木管とホルンが彩りを加える弦楽器の美しさはこの演奏の大きな聴かせどころです。

第四楽章は熱い盛り上がりを聴かせます。練習番号64の前のa tempoは遅め、練習番号65から第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの交互の同じ音型では、楽譜指定のff-ffではなく第2ヴァイオリンを弱めるff-p。練習番号67の1小節前のティンパニはトレモロではなく3連符として全体の響きの中でメリハリを強調していました。

初顔合わせのため意表を突くような思い切った表現は聴かれませんが、自己の個性を強引に押し付けることなく、オケを自由に泳がせながら自然に自分のペースに持ち込む素晴らしい指揮者だと思います。指揮者とオケの相性の良さがダイレクトに伝わる気持ちの良い演奏でした。

以下がカットの箇所と演奏時間です。

「第1楽章:15'31" ( 18'59" )」
・ 練習番号3のAllegro moderatoの最初の2小節
・ 練習番号9の16小節めから10小節
・ 練習番号13の5小節目から6小節
・ 練習番号14から15の前まで
・ 練習番号17の17小節目のa tempo から18の前まで
・ 練習番号19の9小節目から8小節
・ 練習番号23の5小節めから10小節
・ 練習番号23の19小節めから4小節
・ 練習番号24の8小節めから練習番号25の3小節まで

「第2楽章:8'33" (10'00")」
・練習番号40から42の前まで

「第3楽章:13'05" (15'37")」
・ 練習番号50から8小節目

「第4楽章:11'34" (13'59")」
・ 練習番号61の9小節めから練習番号62の9小節めまで
・ 練習番号68から4小節
・ 練習番号69から7小節
・ 練習番号76から80の12小節めまで
・ 練習番号83の9小節めから4小節


(2006.11.09)