「ラフマニノフの2番を聴く」17・・・歴史的録音10 ザンデルリング その2
今回はザンデルリングのステレオ再録盤を紹介します。

・ フィルハーモニア管弦楽団
(1989年4月 St. Barnabas Church,Mitcham,Surrey スタジオ録音)
ワーナー系の廉価レーベルapexのCD。
ダイナミックスの差で聴かせるよりも、即興的なアゴーギクと神秘的な響きの変化の妙で聴かせる演奏でした。テンポは旧盤に比べかなり遅くなり、その上第1楽章のリピートを実施しているために、ただでさえ長大な曲がまるでマーラーの交響曲のような長さとなりました。

第1楽章序奏の大地の底から湧くようなコントラバスの不気味な響きで始まり、後ろ髪を引かれるような遅さのAllegro moderato。練習番号7のModerato前のクラリネットソロのリタルダンドは指定より早めに開始。リピート後の同じ箇所ではさらに早めにリタルダンドを開始するなど、かなり細かな部分まで変化を付けています。強弱の変化が狭くフォルティシモも旧盤のような絶叫はありません。ティンパニのアクセントも柔らかで刺激的な部分が薄い演奏でした。最後の1音にトロンボーン付加。

第2楽章も遅いテンポですが、羽毛のような軽いオケの響きのために鈍重さはありません。遅いクラリネットソロの経過句に導かれるModeratoはさらに遅いテンポで、練習番号32のMeno mossoで始めて大きく音楽は動き始めます。

第3楽章は白夜の中で物を見るような幻想的な美しさが漂う無味無臭の音響世界。全く独特の雰囲気です。第4楽章では練習番号61の5小節目にシンバル付加。

1989年といえば既にノーカットで演奏するのが一般的となっていた時期ですが、ザンデルリングは、随所で独自の細かなカットをおこなっています。

録音はデジタル録音ですが鮮明さに欠け霞がかかったような音。オケの響きを充分に捉えきってない印象です。モノラルながら引き締まった音の旧盤の方がザンデルリングの芸風を的確に捉えていると思いました。

以下が56年録音と89年録音の演奏時間の比較と89年録音のカットの箇所です。
演奏時間の最初の数字が56年録音、続いて89年録音。(  )はプレヴィンの1973年録音。


「第1楽章:17'50" 26'15" ( 18'59" )」
・練習番号3のAllegro moderatoの最初の2小節
・練習番号10の17小節目のTempo  Iから6小節
・練習番号19の9小節目から8小節
・練習番号23の19小節めから4小節
・リピート有り。

「第2楽章:9'49" 11'02" (10'00")」
・カットなし

「第3楽章:14'27" 15'28" (15'37")」
・練習番号49の5小節目から2小節

「第4楽章:12'00 14'27" (13'59")」
・練習番号61の9小節めから練習番号62の9小節めまで
・練習番号69から7小節
・練習番号82から84の4小節めまで


(2006.04.29)