クラウディオ・アバド(1933 - ) ミラノ生まれ、アバド家はイタリアの名門音楽一家で父も兄も指揮者。ウィーンでスワロフスキーに指揮を学び、1963年ミトロプーロス指揮者コンクール優勝。 ロンドン響、ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場の音楽監督を歴任。 1990年カラヤンの死後ベルリンフィルの芸術監督に就任するも、2002年健康を害し辞任。 実演やレコーディングを聴いてみても、アバドの演奏は高い音楽性と、純粋に磨き上げられ高度に洗練された演奏ばかりで、ハズレのない指揮者の代表格であったと思います。 ただそれだけでは天下のベルリンフィルの指揮者としては役不足で、アバドは時としてとてつもない大演奏を成し遂げることがあり、そのプラスアルファが他の指揮者を越えて選ばれた理由だと思います。 かつてウィーンフィルと来日しベートーヴェン交響曲の全曲を演奏した時があり、その時の「運命」は、その特大ホームランの代表的な演奏で、フルトヴェングラーは別格として、私は未だにこれ以上の「運命」を聴いたことがありません。(ただし同じメンバーのスタジオ録音はスカ。) 幻想交響曲はシカゴ響とのスタジオ録音があります。 ・シカゴ交響楽団 (1983年 シカゴ オーケストラホール) シカゴ響の首席客演指揮者時代の録音。「怒りの日」の鐘に広島の「平和の鐘」を使用したことで話題となりました。 第1、4楽章リピート有り、第2楽章コルネットソロも有り、第4楽章ホルンはミュート。 原典主義に徹した演奏と思いきや、第4楽章の行進曲主題のトランペットを木管楽器と同じに改変、第5楽章「怒りの日」直前(75小節目)の木管楽器にコルネット、終盤のanimezにトランペットを加筆しています。 響きの透明度の高さが奥行きと大きな広がりを感じさせる演奏で、別採りの「怒りの日」の鐘も奥の深い素晴らしい響きです。 第4楽章最後のファンファーレのブラスの透明感、第5楽章クラリネットソロ後のアレグロアッサイの複雑な絡みも完璧。フルートの下降グリッサンドもまるでウッドホイッスルを使用しているような完璧なぶら下がりです。劇的にして緻密、第3楽章の消え入るようなピアニシモの緊張感と第4、5楽章のブラスの爆発、シカゴ響の機動力を最大限に生かしたスケールの大きなアバドの最良の名演。 クリストフ・フォン・ドホナーニ(1929 - ) ベルリン生まれ、祖父はハンガリーの作曲家エルンスト・フォン。ドホナーニ。 1953年からショルティの下、フランクフルト歌劇場の副指揮者からキャリアを開始、リューベック市立歌劇場、カッセル州立歌劇場、フランクフルト市立歌劇場、ハンブルク州立歌劇場の音楽監督を歴任。ケルン放送響、ハンブルクフィルの首席指揮者を経て、クリーヴランド管音楽監督(1984 - 2002)。 ドホナーニは地方の歌劇場からキャリアを始め、着実に上にのぼりつめていった今では珍しいカペルマイスタータイプの指揮者といえそうです。 録音はかなりの量がありますが、セル時代の精緻なアンサンブルを回復したと言われるクリーヴランド管との録音やウィーンフィルとの録音は、いずれも水準の高いもので、どの曲でも平均点以上の演奏を成し遂げる実力はただものではありませんが、これといった大きな特色に欠けるのが、今一つ人気がない理由かもしれません。ただこのタイプの指揮者は最晩年に大化けし、突然巨匠扱いされたりするので要注目。 ・クリーヴランド管絃楽団 (1989年 10月 クリーヴランド メイソニック・オーディトリアム) ドホナーニは実演を一度も聴いたことがないのでよくわからないのですが、エグゼクティヴ・ビジネスマンのような容貌、何でもソツなくこなす優等生タイプのイメージが強く、どうも上品で近寄りがたい印象があります。 この録音もそんな演奏で、実に上品でほんわかした幻想です。必要にして十分な音が出ているのですが、この曲にはベルリオーズのアクの強さに真っ向から対決するのような緊張感が必要のような気がします。ベルリオーズが突き付けた挑戦状を、冷静にするりとかわした演奏とでも言いましょうか。 第2楽章コルネットソロ有り、第1、4楽章リピート有り、第5楽章animezにアバドと同じトランペット加筆、これはアメリカのオケの伝統でしょうか。 (2004.11.20) |