「幻想交響曲を聴く」53・・・ストコフスキーとオーマンディ

レオポルド・ストコフスキー(1882 - 1977)
音の魔術師といわれたストコフスキー、幻想交響曲のスタジオ録音は意外にも1種類しかありません。
・ニューフィルハーモニア管   1968年6月18日 ライヴ録音
・ニューフィルハーモニア管   1968年6月19,20日 スタジオ録音

・ニューフィルハーモニア管絃楽団
(1968年6月19、20日 ロンドン、キングズウエイホール スタジオ録音)
当時流行したマルチマイクによるフェイズ4システムによる録音。録音の裏表を知り尽くしたストコフスキーならではの様々な効果を駆使した録音です。

曲の前半は、テンポ設定やアゴーギクも比較的オーソドックスで、第2楽章で旋律線の木管楽器を強調する場合に弦楽器の音量を極端に落とし、曲想が変化する時点で変化の鍵となる楽器をクローズアップするなど、各楽器のバランスに独特なものを見せます。
第3楽章のイングリッシュホルンとオーボエの対話の遠近感や、クラリネットソロのppppの緊張感、ぴったり揃ったヴァイオリンのトレモロなど、相当練習を積んだことが伺える演奏です。

後半に進むにつれストコ節全快、ますます絶好調、ブラスが思う存分暴れるバーバリスティックな第4楽章はゴキゲンな出来、最後のファンファーレは通常の倍テンポの早さ。
第5楽章は冒頭から「怒りの日」まで絶妙のテンポ運びを見せ、ピアノと重なる鐘に乗ったチューバソロ後のブラスによる「怒りの日」の旋律は、2回目が通常の倍遅いテンポ、3回目はさらに遅くといった具合で、聴き手にさらなる追い討ちをかけてきます。
「魔女のロンド」直前に大きな急ブレーキ、最後の音にはシンバルとドラのトレモロを重ねていました。

人工的で手練手管を尽くした演奏ですが聴いていて不快感はなく、聴かせ上手な演奏といえそうです。


ユージン・オーマンディ(1899 - 1985)
ストコフスキーの後、フィラデルフィア管の音楽監督となったオーマンディーには3種のスタジオ録音があります。

・フィラデルフィア管      1951年
・フィラデルフィア管      1960年
・フィラデルフィア管      1978年

・フィラデルフィア管絃楽団
(1960年 12月14日 ニューヨーク スタジオ録音)
CBSに残した2度目の録音。
肩の力が抜けた手馴れた演奏。フィラデルフィア管のゴージャスな響きを最大限に生かし、第1楽章のイデーフィクスにわずかなポルタメントをかけ、甘く軽やかに舞う第2楽章など、スィートな感覚の演奏です。

竹をスパッと割ったようなリズムの冴えを見せる第4楽章では冒頭ホルンはミュート、ティンパニの6連符が正確無比の出来。第4楽章140小節目にティンパニ加筆、第1楽章展開部428小節目の木管楽器にトランペットを重ねるなど、この辺にゴージャスなフィラデルフィアサウンドの秘密の一端があるような気がします。

第5楽章の鐘は暗い深い響きでこれはgood, 続くチューバはトロンボーンのような高めの音色、大太鼓のお腹に響くズシンズシンという深い響きが、じわじわと聴き手の昂奮を誘います。最後の4小節はわずかに加速。

今回聴いたのはCBSソニーが創立されてまもなく出た2枚組2,600円のSONW規格のLPです。これは後に1枚1,300円で出たAC番号の一連の廉価盤LPに比べ、音は固めですがカッティングレベルが高く、広大なレンジのアナログ録音の醍醐味が味わえる逸品。


(2004.11.22)