「幻想交響曲を聴く」54・・・・ヴァサディ・バロフ

ラヨス・ヴァサディ・バロフ(? - ?)
この指揮者についてはよくわかりません。インターネットで検索をかけると、ハンガリー語のサイトが数多く引っかかるので、ハンガリーでは知られた指揮者のようです。

日本フィルにしばしば来演したこともあるエルヴィン・ルカーチ(1928 - )がハンガリー国立歌劇場の音楽監督に就任した際の前任者らしく、コダーイに師事したようです。(ハンガリー語は全く不案内なので、この辺は自信なし)
オレゴン響のヴァイオリン奏者で、現在オレゴン・メトロポリタンユース響の音楽監督に同名の指揮者がいますが、こちらは1967年生まれということで、この二人は親子かもしれません。

・ポスタシュ交響楽団
(1960年  ブタペスト スタジオ録音)
ブタペストのポスタシュ響によるハンガリーのレコード会社フンガトロンへの録音。
国内では70年代初頭に「キング世界の名曲シリーズ」の廉価盤LPで出ました。
カップリングはネーメト指揮のハンガリー国立管によるリストの「前奏曲」。

定評のある名演ばかり聴いていると、次第に耳が慣れて、よほどの演奏でないと心を動かされることがなくなってしまったようです。とはいえこの演奏は大名演というわけではなく、音程も怪しく隙間だらけのオケのアンサンブル。
最近ではめったに聴くことができなくなった愚演の部類ですが、指揮者の超個性的な解釈で忘れ難い演奏でした。

スワロフスキーやケーゲルも暗く不気味でしたが、この演奏は度を越しています。
極端に遅いテンポ、鳴らない鄙びたオケの響き。第1楽章など、自信がなさそうに弾いているのが目に見えるような生気のない演奏でした。第2楽章はチェロとベースが微妙にズレています。

芋虫がもぞもぞ動くような第4楽章、この前へ進もうにもなかなか進まないもどかしさは、一体何なんだろうと思います。気持ちの悪さでは随一の演奏かもしれません。
暗く乾いたチューバの音とチーンチーンとなる鐘の音に導かれる「怒りの日」は、まるで夜道で葬送の行列に突然出会ったような恐ろしさでした。

ただ極端に遅い第5楽章は、それだけベルリオーズの書いた細かな動きが手に取るように判るのも事実で、これがかえってベルリオーズの前衛性を際立たせているようにも思えます。災イ転ジテ福トナスといいましょうか。
丁寧に歌わせ、鄙びた味わいを出していた第3楽章がこの演奏唯一の救いでした。


(2004.11.27)