ディミトリ・ミトロプーロス(1896 - 1960) ギリシャ、アテネ生まれのミトロプーロス。聖職者の名門の家に生まれ、生涯独身を通した孤高の指揮者。サン・サーンスに認められ、ブゾーニにピアノ、エーリヒ・クライバーに指揮を師事。驚異的な記憶力の持ち主で、どのような複雑なスコアも一度目を通すだけで暗譜してしまったそうです。ベルリンフィルの定演直前、急病のためにキャンセルしたピアニストの変わりにプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を暗譜で弾き振りしたという有名なエピソードがあります。ミネアポリス交響楽団(1937 - 1950)、ニューヨークフィルの音楽監督(1949 - 1958)。マーラーの交響曲第3番のリハーサル中に心臓発作で死去。 幻想交響曲は1957年4月にニューヨークフィルを振った二つの録音があります。 ・1957年4月17日 ライヴ録音 ・1957年4月 スタジオ録音 ・ニューヨークフィルハーモニック (1957年 ニューヨーク スタジオ録音) ミトロプーロスのLP5枚分しかない数少ないステレオ録音の1枚。 がっちりとした構成、聞き手に媚びない辛口の演奏です。 ミトロプーロスは大好きな指揮者ですが、この録音を最初に聴いた時、正直なところどこが良いのかさっぱりわかりませんでした。何度も聴いているうちにこの演奏の良さが次第に解って来たような気がします。実は第1楽章の中ほどの急速な加速と第2楽章終結部のせかせかしたテンポの揺れには未だに理解できません。 演奏全体にいつものミトロプーロスのようなピリッとした緊張感と熱気に欠けるのは、ニューヨークフィルとの仲が既に冷めていたからかもしれません。(前年バーンスタインがニューヨークフィルの首席指揮者に就任、ミトロプーロスは翌年音楽監督を辞任)。 しかし遅いテンポで大河のようにとうとうと流れる第1楽章序奏、続くイデーフィクスの表情豊かな歌わせ方、清潔感の感じられる第2楽章、第3楽章の遠近感の対比、第4楽章終結部の絶妙のためなど、注目できる部分も多い演奏です。 第5楽章、「怒りの日」の鐘にはピアノの低音部を重ね、重苦しい陰鬱な響きで聞き手に迫ります。魔女のロンド以降のバスの動きも実に雄弁。 今回70年代後半にCBSソニーから出た廉価盤LPで聴きましたが、音が硬く左右に大きく分かれた音像で中抜け状態、回転ムラもありかなり苦しい再生音です。 このような状態なので、この演奏の真価がよくわからず、カートリッジやアンプを替えてみたりと、試行錯誤を繰り返し、結局4回も聴くことになってしまいました。 ミヒャエル・ギーレン(1927 - ) ドレスデン生まれ、ピアノを学び1940年アルゼンチンに移住後、テアトロ・コロンの練習指揮者からキャリアを開始、その後ウィーン国立歌劇場の指揮者を経てストックホルム王立歌劇場、フランクフルト歌劇場などの芸術監督を歴任、以後は BBC交響楽団 首席客演指揮者 1978 - 81 シンシナティ交響楽団 音楽監督 1980 - 81 南西ドイツ放送交響楽団 首席指揮者 1986 - ギーレンは数々の現代音楽の初演者と知られ、鋭敏な耳と論理的な解釈に定評があります。録音は60年代のウィーン国立歌劇場時代からありますが、現代音楽のみならず、モーツァルトやベートーヴェンの古典的な作品を指揮しても、その独特な解釈で新鮮な発見を与えてくれます。特にマーラーは秀逸。 幻想交響曲はいまのところ録音がありませんが、1977年の来日時にNHK響を振っています。 ・NHK交響楽団 (1977年 4月20日 NHKホール ライヴ) N響来演時のライヴのエアチェックです。 ある種ミトロプーロスの演奏にも通じる明晰で辛口の演奏。 第1楽章イデーフィクス前フェルマータの絶妙のテンポの落とし方(108小節目)、そしてテンポを微妙に揺らせながらスピーディに展開する後半。 オケがうまくテンポに乗り、あたかもゴンドラに揺られているような第2楽章は、洒落ていながらも一種毒を含んだ崩しも見せます。 第4、5楽章も細部を緻密に描きながら熱気と緊張感を孕みつつオケを良く鳴らし、大きな高揚を見せていました。 第3楽章で、ギーレンの極めて遅いテンポに管楽器がミスを連発する部分もありますが、N響の整然としたアンサンブルも良く、自然体で力の抜けた素晴らしい名演だと思います。第1楽章リピート有り、怒りの日は暗めの鐘使用。 (2004.09.04) |