「ジャン・フルネ(1913 - )」 フランスのルーアン生まれ、現役最長老の巨匠。オランダ放送管終身指揮者。89年より東京都響名誉指揮者。 90才を越えた今でも毎年のように日本を訪れ、フランス音楽では現在世界最高の演奏を聴かせます。フルネが振ると、どのオーケストラも独得の柔らかで品格に満ちた音色を出すオケに変貌、まさにフルネマジック。 私はフルネが来日すると都合の許す限り聴きに行くことにしています。かつて聴いた東京都響を振ったショーソンやデュカスの交響曲は、これ以上の演奏を望めないほどの極上の名演でした。幻想交響曲はフルネが得意とする曲で、来日時する度にいろいろな日本のオケで演奏し、録音も4つを数えます。 ・イル・ド・フランス管 1979年 スタジオ録音 ・東京都響 1983年 スタジオ録音 ・群馬響 2000年 ライヴ録音 ・東京都響 2001年 ライヴ録音 今回は、日本のオケを振った3つのCDを聴いてみました。 ・東京都交響楽団 (1983年5月19 - 21日 狭山市民会館 スタジオ録音) 横に流れる草書体の演奏、気品に満ち、聴いていて安心感の持てる演奏です。 実演で聴かれるフルネ独特のふわりとした肌あいが感じられないのは、比較的クリアで固めの録音によるものかもしれません。 管楽器のソロ部分が魅力に乏しいのと、オケが多少重く、第1楽章や第5楽章の後半で音楽が停滞し緊張感に不足する部分もありますが、第4楽章の迫力も充分、第2楽章の優雅にして気品の溢れる表現、第3楽章のフルートとヴァイオリンの絶妙のバランスなど、聴き所の多い演奏。 ・東京都交響楽団 (2001年 6月11日 東京文化会館 ライヴ録音) 東京都交響楽団定期演奏会のライヴ録音。日本のレーベル、フォンテックのCD。 この演奏会のために、フルネが終身指揮者となっているオランダ放送管のイングリッシュホルン奏者、S.H.ジェクフスを呼び寄せるほどの力の入れようで、実際第3楽章のイングリッシュホルンソロは音色、間の取り方ともに完璧の出来。 都響と20年以上の付合いを持つフルネの集大成ともいうべき名演。 高い品格を見せながらも厳しいほどの緊張感が全曲を支配している稀有の演奏です。 全体に遅いテンポですが演奏が弛緩することはなく、じっくり熟した中に若々しさと華までが感じられ、とても当時90才近い指揮者の棒とは思えません。 第4,5楽章のffの部厚い響きも圧倒的で、遅いテンポの「怒りの日」も柔らかでありながらもデモーニッシュな深い響きを獲得。 「魔女のロンド」の中間部から終局にかけ、ホルンのゲシュトップやチェロなどの内声部を強調させながらじわじわと緊張感を増していく様も圧巻。この曲を聴いていて鳥肌が立ってきたのは、モントゥー&サンフランシスコ響以来です。 都響もライヴにありがちな粗は全く感じられず、オケが異常な緊張感を持って演奏しているのが聴き手にストレートに伝わってきます。ppでも痩せることなくffでのオケの部厚い響きも素晴らしく、日本のオケが到達した一つの頂点としての記念碑的な録音。 カップリングされている「ダフニスとクロエ」第2組曲は、ラヴェルと同時代に生きたフルネならではの幻想以上の名演で、クリュイタンスの名盤に匹敵する演奏。 ・群馬交響楽団 (2000年 高崎文化センター ライヴ録音) コジマ録音から出ている群響定期演奏会の実況ライヴ。会場の豊かなアコースティックを生かした録音が素晴らしく、柔らかで気品のあるフルネ独特の音色を見事に捉えています。フルネの実演は、会場では実際このように響きます。 控えめでひっそり系の幻想で、一歩一歩噛みしめているような滋味のある演奏。書の名人の筆を見るような、高い品格の中に暖かなぬくもりも感じさせる素晴らしい演奏です。 第2楽章や第4楽章後半で、独特のくずしを見せるアゴーギクはこの録音のみ聴かれる表現。 オケのパワーが幾分不足で、第4楽章のffが充分鳴り切れていないのと第5楽章の打楽器の弱さが演奏全体が平板なものとしているもどかしさはありますが、この蘭の花にも似た気品のあるこの音色の魅力には抗し難いものがあります。 なお、このCDには、オネゲルの「フルートとイングリッシュホルンのための協奏曲」という珍しい曲がカップリングされていますが、これがまた神秘的で清涼な空気が空中に漂うような、幻想交響曲以上の見事な演奏でした。 (2004.12.13) |