「幻想交響曲を聴く」33・・・ゴルシュマン

ウラーディミール・ゴルシュマン(1893 - 1972)
ロシア系フランス人、始めはヴァイオリニストとして活躍後指揮者へ転進、ディアギレフの下でバレェ・リュッスの指揮者陣として名を連ねています。1931年から1956年までセントルイス交響楽団の常任指揮者。この時期に比較的多くの録音を残しましたが、今はほとんど省みられることがありません。現在、グレン・グールドの伴奏録音で名が知られているくらいでしょうか。
ステレオ初期にアメリカのマイナーレーベル、ヴァンガードにイタリアのマリオ・ロッシと並んでウィーン国立歌劇場管弦楽団を振って通俗名曲を数多く録音しています。

・ウィーン国立歌劇場管弦楽団
(1960年 ウィーン ムジークフェラインザール スタジオ録音)
ステレオ初期に発売されたヴァンガード・ステレオ・デモンストレーションシリーズ中の一枚。今回は米盤オリジナルLPで聴きました。
ジャケットの解説文によれば、この録音のためにウィーン郊外の鋳物工場で大型の鐘を特別に鋳造し、ホールのステージ横に床が抜けそうなほど巨大な足場を作り、吊り下げたそうです。

早いテンポ、明るい響きの軽快な演奏。随所に個性的なテンポの揺れが見られます。
音符を短めに切り上げ、パリッとした洒落た感覚と洗練さも見せますが、線が細くパンチに欠け、軟弱な印象を受けました。

レイヴォビッツ盤ほどではないものの、オケの非力さも気になります。
第1楽章や第5楽章での弦楽器の各声部が錯綜する部分など、もやもやとした曖昧さを感じさせ、第4楽章冒頭のティンパニの6連符も6連符として正確に刻まれてなく、拍の1拍目を通常聴かれるよりも長めに採っているため、タァーンタタタタタ、タァーンタタタタタに聞こえます。ただこのティンパニの叩き方はあまりにも特徴的なので、ゴルシュマン独自の解釈かもしれません。

第2楽章は完全にウィンナワルツのリズム。これはベルリオーズの意図したものとは異なるとはいえ、この華やかさと優美さには捨てがたい魅力もあります。
鳴り物入りで特注した「怒りの日」用の鐘は、現代の耳で聴くとごく普通の鐘の音。
残響豊かなムジークフェラインザールの空間に響き渡る圧倒的な存在感を期待していただけにこれは期待外れでした。


(2004.09.10)