今回はロシアの名指揮者二人の演奏です。 アルヴィド・ヤンソンス(1914 - 1984) ラドヴィア生まれ、ムラヴィンスキーと並びレニングラードフィルの指揮者陣に名を連ねたアルヴィド・ヤンソンス。今では息子のマリス・ヤンソンスの方が名を知られていますが、60年代から70年代にかけてレニングラードフィルやモスクワフィルとたびたび来日し、特に東京交響楽団を振った時の情熱的な名演の数々は半ば伝説化しています。 アルヴィド・ヤンソンスには二つの幻想交響曲の録音があります。 ・レニングラードフィル 1962年12月 スタジオ録音 ・レニングラードフィル 1971年4月 ライヴ録音 71年のライヴは、旧ソ連崩壊後に流出したメロディア音源をCD化していた、いくつかの怪しげなレーベルの一つICONから出ていました。 今回聴いたのは、旧ソビエト連邦の国営レコード会社メロディアから出ていたLPで、何も記載のないペラペラジャケットにロシア語で曲名と演奏者のみが書かれたピンク色レーベル、これ以上簡素に作りようのないメロディアの国内向けLPです。 実はこれが62年、71年盤のどちらなのかは確定できません。しかし聴衆ノイズのないことからおそらく62年録音だと思います。第三の録音である可能性も否定できませんが。 ・レニングラードフィルハーモニー管絃楽団 (1962年 12月 スタジオ録音) 都会的で洗練された演奏。ロシアのオケ特有の金管楽器の咆哮もなく、音の響きのみを聞けば、とてもロシア人による演奏には聞こえません。 消え入るようなピアニシモで始まる第1楽章は、終始遅いテンポが支配。 イデーフィクスも遅くその下で支えるベースのガリッとした硬質な響きが個性的、余韻を保ちながら豊かに歌う第2、3楽章の後、音符を短めに区切りミリタリー調の第4楽章は、41小節目の第1主題ヴァイオリンの旋律3拍目の2分音符を半分の音価で演奏。 これはムラヴィンスキーやロジェストヴェンスキーなど他のロシアの多くの指揮者が踏襲している解釈です。クラリネットソロの後、首が飛んだ後小太鼓のトレモロが入る前に大きなルフトパウゼがあります。ぎくしゃくした第5楽章は普通の出来、テヌート気味の遅いフーガとギリシャ聖教の教会の鐘を連想させる深い鐘の音が印象に残りました。 エフゲニ・ムラヴィンスキー(1906 - 1988) ロシア国内のみならず、20世紀を代表する大指揮者ムラヴィンスキーには2種の幻想交響曲の録音があります。 ・ソビエト国立交響楽団 1949年 スタジオ録音 第二楽章のみ ・レニングラードフィル 1960年 ライヴ録音 ・レニングラードフィルハーモニー管絃楽団 (1960年 2月26日 レニングラードフィルハーモニーホール ライヴ録音) ロシアンディスクから出ていたCD。1960年録音ですがモノラルで高音が強調されキンキンとした金属的な響きで、聞き手の落ち着きを乱すような音です。 ロシア的な野性味を全面的に押し出した超個性的なライヴ。咆哮するブラス、怒涛のようにつき進むバス強調の弦楽器。しかし、ロシアのオケにありがちな乱雑はなく、厳格なトレーニングに裏打ちされた精密なアンサンブルを土台として再現しているのが凄いと思います。 粘る旋律線、主題ぶつ切りの第1楽章では、イデーフィクス2小節目の2拍目でぶっつり旋律を短く切り、その後の3拍目で大きな粘りを見せています。後半は予測のつかない激しいテンポの動きに幻惑されて、何がなんだか判らないうちに第1楽章が終わってしまいました。 第2楽章では一転して粘らず停滞せず、ぴりっとした緊張感が漂います。 遅く始まる第4楽章は、ティンパニの叩きつけるような強打、次第に加速すると思いきや、極端なテヌートをつけた行進曲のテーマ部分では突然の急ブレーキを見せるなど、全く独特の解釈です。第1主題はヤンソンスと同じ。 オケの性能は極上、ムラヴィンスキーならではの個性的な中に見せる強い説得力はここでは感じられません。貧弱な録音のためなのかもしれませんが、第5楽章など、打楽器の乱打にうるささも感じられます。 駄作の少ないムラヴィンスキーとしては魅力に欠ける演奏だと思いました。 ・ソビエト国立交響楽団 (1949年 スタジオ録音 第2楽章のみ) 休刊となってしまった季刊「クラシックプレス」誌の附録CD、メロディアのSP盤からの復刻です。 洒落ていて粋、2拍目を強調しながら横に流れる流麗な演奏。ムラヴィンスキー特有の締め付けるような緊張感の中に潜む美しさは見られません。後の演奏からは想像できない意外なムラヴィンスキーの一面を覗かせる興味深い録音。 (2004.09.23) |