ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908 - 1988) カラヤンは、アーヘン市立歌劇場音楽監督時代の1938年に初めて幻想交響曲を振っています。それ以後しばらくはレコーディング前後の演奏会に取り上げているくらいで、主要なコンサートレパートリーではなかったようです。 現在5つの入手可能な録音があります。 ・フィルハーモニア管絃楽団 1954年 スタジオ録音 ・ベルリンフィル 1964年 スタジオ録音 ・パリ管絃楽団 1970年 スタジオ映像 ・ベルリンフィル 1974年 スタジオ録音 ・ベルリンフィル 1987年 ライヴ録音 海賊盤 他に1954年ウィーンフィルによる録音とされるLPが出たことがあります。 しかしこの時期のカラヤンにはウィーンフィルを指揮した事実はなく、実際にカラヤンの演奏であるかは疑問があります。 ・フィルハーモニア管絃楽団 (1954年 7月9日 ロンドン・キングズウエイホール スタジオ録音) 国内盤ではずっとお蔵入りでCD時代になって初めて出ました。 1957年ADFディスク大賞受賞盤。 遅いテンポで大きく揺れるレガート多用のロマンティックな世界。 レガートで粘るイデーフィクスはぐっとためを効かせ、後半テンポアップ。 随所で聞かれる天才ホルニスト、デニス・ブレインの名人芸が光ります。 流麗な第2楽章、第3楽章では、弦楽器の刻み14小節目の鋭いアクセントと膨らませ気味のffが個性的。 オケを思いきり鳴らし、輝かしい壮麗さ演出する第4楽章は、明るい金管楽器の響きが後のベルリンフィル盤とはまた異なった清清しさも感じられます。 クラリネットソロの絶妙なテンポ変化の後、最後のファンファーレは通常の倍のテンポで演奏されます。第5楽章では「怒りの日」が極めて遅く、続くコラールもレガート多用の柔らかな響きで、まるで別の曲のように聞こえます。「魔女のロンド」は逆に極めて早く、334小節目のホルンのゲシュトップは強烈な響きが大きなアクセントとなっています。後のベルリンフィルとは全く異なる、曲に頭から没入した耽美的ドロドロの個性的な演奏。 ・パリ管絃楽団 (1970年 6月25日 パリ スタジオ映像) パリ管常任時代の映像、監督は別人ですが、明らかにカラヤンの美意識に塗られた映像。 真っ赤な背景に浮かび上がるカラヤンの指揮姿。スタジオに備え付けられたギリシャの円形劇場のようなひな壇の中心に位置するカラヤンの姿と完全4管の巨大な編成のパリ管の姿。まるでディズニー映画「ファンタジア」の世界です。 映像は楽器の極端なクローズアップとカラヤンの指揮姿ばかりで、演奏する楽団員の表情はほとんど見えません。たまに出ても後ろ姿かシルエット、もしくは正面からの全体像のみという状況。あきらかに音と映像は別採りで、指と手の動きを音に合わせる収録時の楽団員の苦痛は、ごく瞬間的に出てくる楽団員の能面のような表情がよく物語っています。 今みるとかなり時代を感じさせ、ホルンのシルエットが左右逆だったりして笑えます。 しかし演奏はストレートで劇的、ベルリンフィルとの録音では感じられなかった勢いもあり、パリ管の引き締まって華麗な音色とともに、充分楽しめる名演です。 特に第5楽章後半の追いこみはドラマティックな迫力で興奮させます。怒りの日の鐘は教会の鐘のクローズアップですが、出てくるのは鐘と機械的に左右に揺れるバチのみで音と映像は完全にずれています。これでは音声だけで発売した方が良かったかもしれません。 怒りの日チューバのうち一本はどう見てもユーフォニウムです。 (2004.10.01) |