「幻想交響曲を聴く」41・・・マゼール

ロリン・マゼール(1930 - )
かつてポストカラヤンの有力候補とされていた1930年代生まれの指揮者たち。結局ベルリンフィルのポストはアバドの手に落ち、そのアバドもベルリンフィルから退き、クライバーは死去、小澤征爾はウィーン国立歌劇場の音楽監督といった具合でこの世代の指揮者たちは、今ではすっかり長老クラスとなりました。
マゼールはウィーン国立歌劇場の総監督は経験しましたが、その後ピッツバーグ響、バイエルン放送響の首席指揮者を経て現在ニューヨクフィルの音楽監督。
私の印象では、マゼールは、あり余る才能を生かしきれないまま年をとってしまい、結局どのポストも中途半端になってしまったように思います。
幻想交響曲には以下の録音があります。

・ ベルリン放送響    1961年  ライヴ録音
・ クリーヴランド管   1977年  スタジオ録音
・ クリーヴランド管   1982年  スタジオ録音
・ バイエルン放送響   2000年  ライヴ録音  海賊盤

・クリーヴランド管絃楽団
(1977年11月1日 クリーヴランド マソニックオーディトリアム スタジオ録音)
CBSへの録音。第4楽章141小節目からのピッコロ追加、第5楽章終結部の木管にコルネットを重ね、さらに第4楽章と第5楽章を切れ目なく演奏するなど、斬新なアイディアに満ちた才気溢れる演奏でした。

第2楽章は左右に別れたハープが効果的な掛け合いも見せ、オケも対向配置、しかもコルネットのオヴリガードソロ有りという細かな配慮を見せます。

色彩管豊かで絶妙な間の取り方を見せる第1楽章、各楽器の旋律の複雑な綾が美しい第2、3楽章などでは、他の演奏では聞こえないような内声部が強調されていますが、少しも不自然さを感じさせなく新鮮味を持って響くのが見事。
太鼓の音が全体に軽めで、ティンパニはずいぶんとバタバタとした音に聞こえます。
それに対し大太鼓はずしりと手応えのある音。第5楽章のクラリネットソロは今まで聴いた演奏中最速、「怒りの日」の鐘はチューブラベル使用、チューバはオフクレイドのような軽い響きです。
マゼールの才気が最上の形で現れた名演。


・クリーヴランド管絃楽団
(1982年 5月10日 クリーヴランド セヴェランスホール及びコヴェナント教会(鐘のみ) スタジオ録音)
録音にこだわりのあるテラークレーベルへのマゼールの再録音。第5楽章の鐘は、オケのいるセヴェランスホールから1キロ以上離れたコヴェナント教会の鐘楼にマイクを設置、ここからホールまで1500フィートものケーブルで結び、直径1メートル以上の巨大な鐘をオケと同時進行で叩きながら収録したそうです。テレビカメラで映しながら叩いたのかしらん。

旧盤では思いきった解釈で、聞き手の意表をつきましたが、こちらは早いテンポでサラリと流した端正な出来。相変わらずのうまさですが、旧盤のような面白さに欠けると思います。特に最初の3つの楽章に顕著。

第4楽章後半のピッコロ加筆なし、第5楽章のクラリネットソロ部分では、伴奏部分を聞こえないほど弱音で奏してソロを際立たせ、その後のティンパニの凄まじいfffと大きな対比を見せていました。最終部分506小節目の木管にコルネットを重ねているのは旧盤と同じ。最後のフェルマータの極端な延ばしはミュンシュのライヴに次ぐ長さ。
コルネットのオヴリガードソロはこちらも入っていますが、オケは対向配置ではなく、なぜか通常配置、録音側の要請でもあったのでしょうか。
こだわりの鐘はずいぶんと控えめな音。第4、5楽章間の切れ目も有り。


(2004.10.07)