「ジョルジュ・プレートル(1924 - )」 フランスのヴァジエ生まれ、クリュイタンスに師事。現在活躍するフランスの指揮者の中ではジャン・フルネと並んで巨匠的存在です。 パリ管が来た時に富士市でプレートルを聴きました。同じフランス人指揮者でもフルネとは対照的で、多少の乱れは気にせず、オケの自発性に任せながら自分の音楽に没入していくのが印象的でした。 会場もおおいに沸き、当時の演奏会評も好意的ではありましたが、ボレロで見せた独得のアゴーギクが私にはアクの強さに感じられ、あまり感心しなかった記憶があります。 幻想交響曲は3つの録音があります。 ・フランス国立放送局管絃楽団 1965年 ライヴ録音 未発売 ・ボストン交響楽団 1969年 スタジオ録音 ・ウィーン交響楽団 1985年 スタジオ録音 ・ウィーンフィル 2004年 ライヴ録音 海賊盤 今回は2つのスタジオ録音と、1988年パリ・オペラ座管絃楽団と来日した時のライヴ映像を聴いてみました。 ・ボストン交響楽団 (1969年 ボストン シンフォニーホール スタジオ録音) アメリカの名門オケ、ボストン響にミュンシュ亡き後、当時フランス人の若手指揮者中の注目株だったプレートルをあえて起用した注目の演奏。 今回は70年代に1,000円で出たRCAの国内盤LPで聴きました。最近タワーレコードよりCDとして復刻されています。 すでにRCAにはベルリオーズについてはドル箱的存在だったミュンシュ&ボストン響の数々の名録音がある中で、若手の指揮者にボストン響を使い幻想交響曲を録音させるとは、随分と思い切ったことをしたものです。 演奏は、当時上り調子であったプレートルの意気込みがストレートに伝わってくるテンションの高い演奏ですが、いささか力が入りすぎで意欲が空回りしている傾向があります。 早めのテンポの中、オケを煽ったり緩めたり随分と振幅の大きい演奏で、唐突な間の取り方が余裕のなさを感じさせました。これは特に第5楽章の終盤で顕著。 猛牛が突進するようなエキサイトぶりを見せる第4楽章は荒削りの魅力も感じさせますが、第3楽章などかなり落ち着きのない演奏でした。 オケの合奏力は見事なもので、プレートルの唐突なテンポの変化にうまく付けています。 第5楽章最後の小節のティンパニはトレモロ、「怒りの日」は明るい音色の鐘を使用。 ・ウィーン交響楽団 (1985年11月 ウィーン コンツェルトハウス スタジオ録音) ドイツのTeldecから出ていたCD。激しい感情移入、曲と一体となった熱狂型演奏ですが、ボストン響との旧盤のような暴走感がなく、曲全体に緊張感が漲る名演だと思います。 特に緊張感を持続させながら宗教的な静けさを感じさせる第3楽章は秀逸。 第2楽章のウィンナワルツを崩したような独特なルバートも、クサくなる一歩手前で踏み留まっています。 第4楽章の行進曲主題の2小節前や第5楽章のクラリネットソロ後での突然の加速など、 相変わらず唐突なテンポの変化はありますが、聴いていて不安定さは感じられません。 大きな広がりを持つ「怒りの日」、ブラスを豪快に鳴らした第4楽章などはパンチを効かせた豪快な出来。 ・パリ・オペラ座管弦楽団 (1988年 7月22日 東京 サントリーホール ライヴ映像) 今は組織改変のためパリ・バスチーユ管となったオケ、パリ・オペラ座管時代の来日公演のエアチェック映像。画面を見るとファゴットはフランスタイプのバソンが4本ずらりと並び、オーボエ首席は世界的名手ピエール・ピエルロ。楽団員の面構えもまるで20世紀初頭のフランスオケのような粋な雰囲気が漂っているようにも思えます。 プレートルの指揮は相変わらず即興的で感情移入の激しいもので、第5楽章の悪鬼のような形相は見ていてコワイものがあります。 オケはプレートルの自由奔放な指揮ぶりに完全にぴったりというわけにはいかず、第1楽章のイデーフィクスのヴァイオリンとフルートや第3楽章の木管楽器群が大きくずれたり、第2楽章後半で大きく崩れてヒヤリとする場面があり、「怒りの日」の鐘など指揮から半拍遅れで鳴り始め、続く管楽器も音がポロポロ落ちていますが、プレートルは全く気にせずひたすら前進。 フランス式のおおらかさでしょうか、こんな状態でも音楽が生き生きと息づいているから不思議です。第2楽章のお洒落なルバート、第5楽章後半でテンポを煽った猛烈な迫力など、即興的な面白さを見せたスリリングな演奏でした。 (2004.12.18) |