これから日本の指揮者の演奏を紹介します。今回は同じ1935年生まれで世界的なオーケストラと歌劇場のポストを歴任した小澤征爾と若杉弘の演奏です。 小澤征爾(1935 - )には、ボストン交響楽団の音楽監督時代に比較的まとまった量のベルリオーズの録音があります。一時期師匠のミュンシュの後継者として、ベルリオーズのスペシャリストのような扱いを受けた時期もありましたが、最近ではそのような声は聞かれなくなりました。レコード会社の営業戦略だったのでしょうか。 幻想交響曲には2種の録音があります。 ・トロント交響楽団 1967年 スタジオ録音 ・ボストン交響楽団 1973年 スタジオ録音 ・トロント交響楽団 (1966年12月1日 トロント スタジオ録音) トロント響音楽監督時代の小澤征爾30代前半の録音。この1966年は小澤征爾が大きく飛躍した年で、ウィーン音楽祭でウィーン響を振り幻想交響曲を演奏し、ベルリンフィルの定期演奏会にも初めて登場しています。 今回は米CBSの廉価盤オデユッセイのLPで聴きました。 スピーディで軽い演奏でした。第2楽章のハープと第4楽章のティンパニを左右に配置し、掛け合いの面白さを強調していますが、ハープはともかくティンパニが他の楽章ではあまり聞こえてこないので、不自然さを感じます。 第1楽章、最初のホルンソロからアレグロに向けて急に早くなりますが、イデーフィクス直前でテンポを落とし、イデーフィクスはむしろ遅めに歌います。あっさりさわやかな第2楽章。第4楽章がやたらと早く3分台の演奏。 第5楽章では突然のルフトパウゼがあったり後半部分でテンポが急速に変化したりと、小細工が目立つように思います。クラリネットソロ部分の弦楽器が少し遅れ気味で響きも薄く、オケが小澤の変幻自在の指揮に充分に付いていかない部分もありました。 やはり後の小澤征爾の演奏に比べると、ずいぶん聴き劣りがします。良くも悪くも若いなぁという印象です。「怒りの日」はチューブラベル、スルポンティチェロ有り。 ・ボストン交響楽団 (1973年2月19日 ボストン スタジオ録音) ボストン響の音楽監督就任まもなくの録音。演奏時間は旧盤とあまり変わらないものの、テンポ運びが自然で違和感は全くありません。スピーディでしなやかによく歌う演奏。 柔らかでウォームな響き、同じオケでありながらミュンシュの強烈な個性に引っ張られた熱狂はここではあまり感じませんでした。実にうまい演奏で、第4,5楽章の迫力も必要にして十分、しかし整いすぎて面白みに欠けるような気もします。 ミュンシュ盤でも名人芸を見せていたティンパニのヴィックファースはここでも健在。 要所要所で演奏を引き締めていました。 若杉弘(1935 - ) 東京生まれ、東京芸大で指揮を学んだ後に1965年に読売日本響の専属指揮者となり、後に1975年まで常任指揮者。以後、ケルン放送響首席指揮者、ライン・ドイツオペラ総監督、ドレスデン州立歌劇場とドレスデン・シュターツカペレ常任指揮者、チューリヒ・トーンハレ管首席指揮者、東京都響音楽監督を歴任。現在NHK響正指揮者(1995 - )。 超一流の指揮者たちがそのポストを歴任したドイツの一流オケと歌劇場の常任指揮者を経験している日本人指揮者は今のところ若杉弘だけです。特にドレスデンのオケは、ワーグナーが楽長であったこともある世界最古のオケ。 録音はドレスデン、チューリヒ時代と、比較的近いところでは東京都響を振ったマーラーなどがありましたが、読売響時代に通俗名曲を中心としたかなりの数の録音があります。 ・読売日本交響楽団 (1970年ころ スタジオ録音) 研秀出版から70年代に出た「世界の音楽」シリーズ中のLP。単独でも日本ビクターから出ていたようです。 オペラ経験の豊富な人なので、標題を強く意識したオペラティックな演奏かと思いきや、テンポの変化も少なく、整然とした端正な演奏でした。 第1楽章イデーフィクスの直前のテンポ運びはいろいろな指揮者の腕の見せ所ですが、ここでは序奏のテンポから大きな変化がありません。曲が進むにつれ、次第にテンポを上げて大きな起伏を見せていました。後半のオーボエソロとヴィオラの絡み合いの美しさが印象に残ります。古典的な均整のとれた第2楽章、遅いテンポの中清潔感の感じられる第3楽章。第5楽章のコルレーニョの入る直前から急速にテンポアップ、大きな盛り上がりを見せていました。 第5楽章の終結部、「怒りの日」の旋律が再現した直後492小節目でホルンの1番が飛び出しています。マルティノン&N響のライヴでも同じ箇所でトロンボーンが飛び出していましたが、こちらはスタジオ録音なので、採り直して欲しかったと思います。 多少のキズはありますが、オケの鳴りも必要にして充分、リズムも冴えた好演で、私は小澤&トロント盤よりも楽しんで聴きました。 (2004.11.01) |