「幻想交響曲を聴く」48 日本の指揮者たち3・・・山田一雄と渡辺暁雄

山田一雄(1912 - 1991)
東京生まれ、東京音楽学校(現東京芸大)で作曲とピアノを学ぶ。指揮をローゼンシュトックに師事、1940年新交響楽団(現N響)の常任指揮者。春の祭典やマーラーの交響曲第8番などの日本初演多数。京都市響、神奈川フィルなどの音楽監督を歴任。

いつも若々しかったヤマカズさん、実演で聴くと指揮棒の先から凄まじいエネルギーが迸り出て、聞き手を熱い興奮に導く名指揮者だったと思います。沼津で「モルダウ」と「悲愴」を聴きましたが、「悲愴」の第3楽章を始める前にニヤリと笑みを浮かべ、腕まくりをするしぐさをして演奏を始めたユーモラスな姿が今も目に浮かびます。

・新星日本交響楽団
(1990年 6月6日   ベルリン シャウシュピールハウス ライヴ録音)
山田一雄急逝の1年前、今は東京フィルと合併し消滅した新星日響創立20周年記念欧州楽旅でのライヴ。

最初聴いた時はずいぶんと平板な演奏で老いたなぁという印象でした。
しかし再度聴き直してみるうちに、曲の奥底まで見据えた内省的で深い演奏であることが次第に見えてきました。

美しくゆっくり始まる第1楽章、残響の多いホールにも助けられていますが、新星日響の響きがまるで超一流オケのような美しさで聴こえてきます。
イデーフィクスはゆっくり粘り、かなり屈折した趣。終結部コラール前のウンポコ・ピウ・レント、ここの第一ヴァイオリンのなにげないスタッカートが、これほど雄弁に響いた演奏はなかったと思います。
自由にそして純真に遊ぶ可憐な第2楽章は、演奏に没入する指揮者のうなり声が随所で聞こえます。宗教的な美しさに満ち丁寧に語りかける第3楽章も見事なもの。

しかし続く第4,5楽章になると、指揮者に共感したオケの熱意と緊張感は感じられるものの、リズムが重く自発性もいまひとつ、後半はもう少し元気があっても良かったと思います。この柔らかい演奏が晩年のヤマカズさんの解釈だったのでしょうか。
残響の多いシャウシュピールハウスの柔らかな響きも、演奏の求心力を弱めているようにも思えます。

渡辺暁雄(1919 - 1990)
日本人を父に、フィンランド人を母に東京に生まれる。日本フィル、京都市響、東京都響、広島響の音楽監督を歴任。特に日本フィルとは創設時から深い関りがあり、分裂前の日本フィルを振った録音がかなりありますが、大部分が子供向けの名曲集の類で、現在多くが廃盤。シベリウスのスペシャリストとしても名高く、ステレオによる世界初の交響曲全集を含め、2種の全集を残しています。

・日本フィルハーモニー交響楽団
(1965年ころ 東京文化会館大ホール スタジオ録音)
小学館から昭和40年代初めに出た「ステレオ世界の音楽」の第15巻附録のソノシート。第4,5楽章のみの収録。ソノシートながらステレオ録音で、多少の腰の弱さを除けば優秀な録音です。録音エンジニアは菅野沖彦氏。

解説によると、この録音のために石川県まで鐘を探しに出かけたそうです。
しかし実際に聴いてみると、ふたつめの音がオクターヴ高く、ずいぶんとおかしな響きです。
演奏は速いテンポで焦点が定まらず、落ち着きのない印象を与えます。
第5楽章のチューバは太くて良い響き、早めのテンポのフーガは荒削りで野性的な魅力は感じさせます。
渡辺暁雄さんの演奏は実演で何度か聴き、その都度大きな感銘を受けましたが、この録音はオケのアンサンブルが雑で楽しめませんでした。


(2004.11.05)