ヘルベルト・ケーゲル(1920 - 1990) ライプツィヒ生まれ、はじめピアノを学ぶも第二次世界大戦で腕を負傷し断念、その後指揮者に転向し、1953年ライプツィヒ放送合唱団指揮者、1960年ライプツィヒ放送響首席指揮者。1977年からドレスデンフィル音楽監督、1990年東西ドイツ統一の年、謎のピストル自殺。 生前のケーゲルは、旧東ドイツで活躍していたスイトナーやマズアと比べて堅実で地味な指揮者といった評価で、CD初期に格安のベートーヴェン交響曲全集が目に付いたくらいでほとんど話題になることがありませんでした。(演奏は良かった) ドレスデンフィルとの来日公演でも、私はケーゲルよりも団員だったトランペットの名手ギュトラーを注目していました。 それが、死後突然評価が急上昇、各種の放送録音から来日時のライヴまで、次々とCD化されることになっています。ケーゲルのレパートリーはかなり広く、アルビノーニのアダージョのような小品からマーラー、ブルックナーの交響曲、ノーノやデッサウなどの現代音楽まで、きわめて多種多様な録音が残されています。アルビノーニや「アルルの女」のような曲も、ケーゲルにかかると一種独特の緊張感と狂気を含んだ異様な演奏となるのでした。 ・ドレスデンフィルハーモニー管絃楽団 (1984 1月、5月 ドレスデン ルカ教会 スタジオ録音) ひやりとする冷たさに満ちた幻想、 第1楽章、第4楽章のリピート有り、遅いテンポで、第1楽章序奏などだんだん遅くなり止まりそうです。ダイナミックスの変化は譜面を無視する部分が散見され、第2楽章中間部など極端に小さくしています。 第3楽章の病的な美しさ、弱々しさと荒々しさが共存した第4楽章、オケは鳴りきっているのに冷めた第5楽章、「怒りの日」の鐘の音は、まるでお寺の梵鐘のようでゴーンとした東洋的な響きです。どこで探したのでしょうか。これほど体温の低い幻想交響曲は初めてでした。 ルドルフ・ケンペ(1910 - 1976) ドレスデン郊外のニーダーポイリッツ生まれ、ライプティヒ・ゲヴァントハウス管の首席オーボエ奏者の後指揮者へ転向、ドイツの地方歌劇場の練習指揮者からキャリアを開始した典型的なカペルマイスターでした。 ドレスデン国立歌劇場、ミュンヘン国立歌劇場音楽監督、チューリヒ・トーンハレ管、ミュンヘンフィルの音楽監督、ロイヤルフィル、BBC響の常任指揮者を歴任。 ・ベルリンフィルハーモニー管絃楽団 (1959年 7月3日 ベルリン スタジオ録音) 重厚な響きにしてがっしりとした構成感、堅実で律儀なケンペの芸風そのものの演奏でした。ドイツ風のベルリオーズですが、けっして野暮な表現に陥っていないのが名指揮者ケンペの実力。 テンポの大きな動きはありませんが、第1楽章イデーフィクス直前での大きなrit、ベルリンフィルは良く鳴っています。しかし第5楽章のロンド部分になると重い響きが鈍重さを感じさせました。「怒りの日」の鐘は大きな鉄の塊を叩くような音。 これはEMI原盤ですが、今回オランダのDiskyからCD化された2枚組廉価盤と60年代初頭、日本で発売された初出時のモノラル仕様のLPで聴きました。 このDiskyのCD、細部が明瞭でリマスタは悪くないですが、50年代のベルリンフィルの重厚な響きがスポイルされてしまっていました。 驚いたのは、第3楽章67小節目、フルートと第1ヴァイオリンがpで掛け合いをする後の突然の沈黙、なんと10秒間も無音でした。 これはLP時に面が変わるためマスターテープをここで区切ったからで、それがそのままブランクとなっていました。同じEMIのシルヴェストリも同じような珍現象が起こっていました。(あちらは1小節余分に収録)。製品の最終の出来あがりをチェックしていないことがバレバレのCD。 LPはベルリンフィルの重厚な響きを見事に捉えたもので、モノラルながら奥行きのある見事な響きです。CDでとぎれた箇所でB面に切り替わっていました。苦笑。 (2004.11.11) |