「新世界よりを聴く」94・・・ジュリーニ その2
今回はジュリーニの二つのスタジオ録音を紹介します。

・ シカゴ交響楽団
(1977年 4月  シカゴ オーケストラホール スタジオ録音)

70年代の後半にジュリーニとシカゴ響はドイツ・グラモフォンに、シューベルト、マーラー、ブルックナー、ドヴォルザークの9番の交響曲を録音しています。特にマーラーとブルックナーは大変な評判になったと記憶しています。

テンポはだいぶ遅くなりましたが、ひとつひとつの音に緊張感が漲っているため音楽が弛緩することはありません。音楽の流れの要所要所で劇的なクライマックスも聴かせるバランスのとれた名演。

第1楽章冒頭の枯れた響きはデッドなホールの故でしょうか、続くホルンの太い響きが実に印象的でした。第1楽章序奏ティンパニは1発打ち、第2主題はBABA型のスプラフォン版。リピート有り。第1楽章終結部ではティンパニが遠いところから長大なクレッシェンドをかけて次第に大きく盛り上がっていくのが実に効果的。

第2,4楽章の息の長いのびやかな歌、第3楽章中間部の僅かに漂う寂寥感。ppからffまでのダイナミックレンジの広さなど、どれを取っても一級品。
シカゴ響は相変わらずの世界最高性能ですが、第4楽章92小節のハーセスのトランペットはちょっと目立ちすぎだと思いました。

・ ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
(1992年  アムステルダム コンセルトヘボウ スタジオ録音)

CBSに録音したジュリーニ3度目の録音。

シカゴ響の録音を聴いた時には、これ以上の完成度は望めないだろうとも思いましたが、この録音は熟成したワインのようなコクと細部の仕上げも緻密さを増した名演奏となりました。

第1楽章序奏のティンパニは1発打ち、第2主題はBABA型のスプラフォン版。
さすがにこれだけ遅くなると第1楽章のリピートはなし。
果てしなく続くかと思われる第2楽章は、聴いているうちにブルックナーの交響曲の長大なアダージョを聴いている気分になって来ました。第3楽章は悲劇的な展開を見せ、第4楽章の軽薄に陥らない巨大な表現も秀逸。
ジュリーニ晩年の演奏はあまりにも高踏的で、いつも感想を書くのに苦労します。この演奏も例外ではなく、テンポはさらに遅くなり完全にジュリーニ独自の世界を展開しています。

風格もあり立派な演奏ではありますが全編多用されるレガートには抵抗を感じます。
一つ一つの音が見事に彫琢され、聴き手にそれなりの緊張を強いる辛口の名演だと思いますが、過ぎたるは及ばざるが如し。私はシカゴ響盤を好みます。
(2006.03.20)