「新世界よりを聴く」96・・・インバル
「エリアフ・インバル(1936 - )」

エルサレムで生まれ、地元の音楽アカデミーでヴァイオリン、指揮、作曲を学ぶ。バーンスタインの推薦によって奨学金を得て、パリ音楽院指揮クラスで学びフランコ・フェラーラの講習会でさらに研鑽を重ねた。1963年にカンテルリ指揮者コンクール一位。以来ヨーロッパ、アメリカ合衆国、日本、イスラエルの主なオーケストラやオペラハウスに客演。

1974年から89年まではフランクフルト放送交響楽団の音楽監督を務め、その間にマーラーとブルックナーの交響曲全集で一躍注目も浴びました。2001年からベルリン響の首席指揮者。

インバルは使用譜に大きなこだわりを持っていて、特に初稿を使用したブルックナーの全集は他に競合盤がなかっただけに注目されました。

・フィルハーモニア管弦楽団
(1990年   スタジオ録音)

スプラフォン新版の使用を明確に打ち出した演奏。スコアを見ながら聴くと細部まで実に正確に再現しています。第1楽章序奏ティンパニの3つの音のトレモロをここまで正確に叩いている録音はほとんどありません。しかも原典譜に忠実であることこだわるあまり学究的な堅苦しさを感じさせないのが良いと思います。

第1楽章の経過主題や第2主題ではテンポを落し気味、第2主題はBABA型。
リピートなし。2番括弧の直前から加速。最後から6小節前もヴァイオリンの上昇音を強調しているのがインバルのこだわりでしょうか。

第2楽章menoの前91小節にあるヴァイオリンの第1音はジムロック版ではfpですが、ここでもスプラフォン新版のfzを強調。続くMenoでもジムロック版にあるヴァイオリンのクレシェンド、デクレシェンドもなく淡々と進めます。
オーボエの早いパッセージの前は譜面指定の1小節前ではなく4小節前からのディミヌエンド。

第3楽章ではリピート後にテンポを速め、中間部の舞曲の前に微妙な間を取っていました。がっしりした第4楽章もクラリネットソロ前のファゴット2本の上昇音型もスプラフォン新版に忠実にスタッカートを強調。
216小節のmeno mosso前で小さな間を空け、終結部最後の332小節も多くの演奏のように倍テンポにせず、たっぷりのばし壮大さを演出していました。

チェコのローカル色は皆無、精密で隙のない名演だと思います。
ただ私はインバルはどうも苦手な指揮者でして、各楽器が実に充実した響きで鳴っているのにかかわらず、モノクロームな音色とどこか冷めていてがっしりとした構成感が、コンクリート打ちっぱなしの部屋の中に一人で居るような違和感を感じてしまいます。

これはフランクフルト放送響との実演を聴いた時も感じたことです。
(2006.04.09)