「ペーター・マーク(1919 - 2001)」 スイス生まれ、フルトヴェングラー、アンセルメに師事。若い頃はロンドン響を振り、モーツァルトやメンデルスゾーンで爽やかな名演を聴かせ、メジャーレーベルのデッカの中心的な存在になりかけましたが、突然仏門に入りチベットで仏教の修行に入ったという変り種。 指揮者復帰後は唯我独尊、スイスのベルン交響楽団、パドヴァのベネト管弦楽団などのマイナーなオケを渡り歩きましたが、豊かな芸術性にますます磨きがかかり、残された録音は、駄作のない滋味溢れる名演ばかりとなりました。 東京都交響楽団の指揮者陣にも名を連ね毎年のように来日しました。最後の2001年も来日予定があり、実はこの時に沼津公演の話も持ち上がっていたのですが、来日を果たせぬまま亡くなってしまいました。 ・ スイス・イタリア語放送管弦楽団 (1996年 ルガーノ イタリア語放送局スタジオ ライヴ映像) マーク晩年の貴重なライヴ映像です。Silverline Classicsというスイスのレーベルが出したDVD20枚組のセット中の一枚で、スイスの放送局に眠っていた映像を格安でDVD化したもの。 内容はドミンゴのアリア集やロシアのバレー団、古いオペラの映像など雑多な内容ですが、マークのほかにデ・ブルゴスやミラン・ホルヴァート、ヒリヤードアンサンブルなどなかなか渋い実力派の演奏家が並んでいます。 今回の映像は一晩のプログラムをそのまま収めたもので、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、シュポアのクラリネット協奏曲第一番、そして「新世界より」が収録されています。 演奏は、明るく新鮮な響きの中に熱狂的な熱さも聴かせる見事なもの。映像を見るとオケは比較的小編成でコントラバスは4本、他の弦楽器もそれに合わせた数になっています。必然的に響きは透明になり各声部も見通し良く響いています。 編成が小さくともアンサンブルと音程がきっちりと整っているために、フォルティシモも充実した音でホール全体に響き、聴いていて欲求不満は感じません。第1楽章序奏でのティンパニの強打と音を割ったホルンの音にもオケの意気込みの強さが自然に伝わります。 第1楽章序奏ティンパニは2段打ち、第2主題はBBBB型ですがスプラフォン新版を使用しているようです。主部の生き生きとしたリズム、経過主題は速めに切り抜け第2主題もフルートの懐かしい歌で聴かせます。第2楽章も美しい出来、menoのヴァイオリンの歌を下で支えるヴィオラとチェロも雄弁、弦楽器の室内楽的な部分の最終段階で自然に力を抜きながらテンポを微妙に落とし、続くテユッティで弦楽器全体が柔らかくそっと入る部分など、ため息が出るような素晴らしさです。 第2楽章最後のコントラバスの和音が消えないうちに切れ目なしに第3楽章に突入。ところどころ微妙なタメを作りながら曲想の転換部を切り抜け、悲愴感を漂わせながら厳しい音楽が展開していきます。 第4楽章でも表情豊かなクラリネットソロ前のファゴット2本の上昇音もスタッカートを明確に演奏させスプラフォン版を強調。151小節のヴィオラの刻みから次第に音楽が熱を帯びはじめますが、このヴィオラの8分音符をこれほどまで完璧なバランスを保たせながらクライマックスに持っていく手腕は見事なものです。クライマックスの頂点も明るい光が差し込むような輝かしさで聴かせます。 スイス・イタリア放送のオケは超一流ではありませんが、名匠マークの指揮の下、気合いの入った感動的な演奏を聴かせています。演奏の途中でしばし団員が笑みを浮かべながら顔を見合わすのが印象的でした。 (2006.04.26) |