「サー・チャールズ・グローヴス(1915 - 1992)」 ロンドン生まれ、BBCノーザン響(マンチェスター)の指揮者を経て、ボーンマス響首席指揮者、ウェールズ・ナショナルオペラの音楽監督、ロイヤル・リヴァプールフィルの音楽監督を歴任。 グローヴスの録音といえばディーリアスの録音に感銘深いものがありましたが、私が印象に残っているのは、デンオンがプロデユースした「グローヴス卿の音楽箱」という2枚のCDです。 「威風堂々」や「愛の挨拶」「グリーンスリーヴスによる幻想曲」などのお得意のイギリス音楽に加えて、「動物の謝肉祭」「森の水車」「クシコスの郵便馬車」といったいわゆる大指揮者が取り上げない軽い曲を集めた名曲集で、グローヴスの人柄がにじみ出るような温かで品格に満ちた珠玉の名演揃いの素敵なアルバムでした。 1975年のBBC交響楽団の初来日公演に、グローヴスはブーレーズとともに初来日していますが、この時の聴衆の関心はもっぱらブーレーズに集中していました。 ブーレーズが振る「火の鳥」全曲を中心としたプログラムは、NHKとBBCによって日本とイギリスに生中継されたと思います。この時のブーレーズの鮮烈な演奏は今でもはっきり覚えています。 そのような中、ブーレーズの影に隠れてグローヴスは全く注目されず、東京公演はこの武道館での1回のみでした。 ・ BBC交響楽団 (1975年5月21日 東京 日本武道館 ライヴ録音) BBC放送局による録音で、BBC放送局のライヴ音源をCD化したBBCクラシックス・シリーズの1枚。この公演は、ロンドンのプロムスを再現したような演奏会で、武道館に5000人の聴衆が集まりました。なおCDの録音表示は6月16日となっていますがこれは誤り。 白いあごひげと暖かな眼のグローヴスの風貌そのままの、慈愛溢れる自然体の演奏でした。 遅い序奏の第1楽章は、主部に入ると早いテンポで次第に加速、盛大に鳴るはずのブラスの音は広大な空間に空しく吸収され痩せた響きと化しています。緻密さを誇る当時のBBC響アンサンブルも心なしかユルサが感じられます。序奏ティンパニは2段打ち、第2主題はAABBのジムロック版使用、音域の低い第2主題のフルートは2本で吹かせているようです。第2楽章で音の長さが充分に保てないのは、残響全くなしの会場のせいでしょうか。横に流しながら要所でピシッと決める第4楽章は大人の風格が漂っていました。 広大な演奏会場であるため、まるで野外演奏のような残響のない痩せた響きの録音です。 ヴァイオリンの旋律など1本の線としか聞こえません。この録音でグローヴスの力量を云々するのはちょっと気の毒。 (2005.12.12) |