「朝比奈隆(1908 - 2001)」 朝比奈隆の「新世界より」には、3種類の録音があります。 ・1977年 ライヴ映像 ・1987年 ライヴ録音 ・1997年 ライヴ録音 オーケストラは全て大阪フィルで、1977年のライヴ映像は朝比奈隆の死後、DVDで発売されました。 ・ 大阪フィルハーモニー管弦楽団 (1997年 1月7日 大阪フェスティバルホール ライヴ録音) 朝比奈隆2度目の「新世界より」、ポニーキャニオンへの録音。 晩年の朝比奈隆の人気は凄まじいものがあり、演奏終了後には熱狂的なファンがステージ前に集まり、立ち上がりながら熱狂的な拍手の雨あられ。私は何度か実演に接しましたが、このあまりのファンの加熱ぶりに演奏終了後に興醒めしてしまったことも少なくありません。 確かに独特の雰囲気が漂う説得力の大きな巨匠の音楽を聴かせてくれましたが、何度かの実演、そして残された多くの録音を聴いてみると、出来不出来の波は少なからずあったと思います。 この録音の第一印象も、オケが全く揃わず、朝比奈ファンからは石を投げられそうですが、なぜ一般発売したのかわからないほどヘタな演奏だと思いました。ただ何度も聴いてみるといろいろと見えてくるところもあり、良くも悪くも朝比奈隆の個性が強く出た演奏だと思います。 譜面に書かれている音符をとにかく正直に再現、たとえば第1楽章第2主題のセカンドヴァイオリンの刻みや第3楽章のチェロの4分音符の極端な強調など、その結果何とも素朴で武骨な演奏となりました。 第1楽章序奏の弦楽器のヴィウラートをたっぷりかけた弦楽器の寂寥感の漂う響き、しかし呼応するホルンと続くフルート入りが揃わず、これは興醒め。 コントラバス強めの充実した響きの中でもオケは充分に鳴らず、時々トロンボーンが音を外しそうになるのはご愛嬌。 序奏ティンパニトレモロは2段打ち、第2主題はAABB型のジムロック版使用。リピート有り。音楽が重く流れに乗りません。ゆっくりとした第2楽章は付点を長めに取る独特のアゴーギク。 緊張感に満ちた中、野武士のような無骨な第3楽章では、92小節のチェロにつけるトランペット強調。第4楽章も剛直で雄大な出来、終末の326小節めでは大きなルフトパウゼで驚かされました。 とにかく、ここまで聴き手に媚びないマイペースな演奏を聴かされると有無を言わさない説得力を感じます。おそらく他の演奏家が同じような演奏をおこなったらとてもCD化までは行かなかったと思います。朝比奈隆だから許せるのかもしれません。 ただ正直なところ、熱心な朝比奈ファンならばいざ知らず、何度も繰り返し聴くCDとしては苦しいものがあると感じました。 (2006.01.04) |