「新世界よりを聴く」82・・・日本の指揮者たち4 小澤征爾
「小澤征爾(1935 - )」

小沢征爾の「新世界より」には以下の3種類の録音があります。

・サンフランシスコ響   1975年     スタジオ録音
・ウィーンフィル     1991年     スタジオ録音
・ボストン響       1993年     ライヴ映像(第2楽章のみ)

1993年の演奏は、小澤征爾のボストン響音楽監督就任20周年を記念しておこなわれた欧州ツアーのプラハでのライヴ映像です。この音源はCDでも出ていますが「新世界より」は省かれています。

・ サンフランシスコ交響楽団
(1975年5月18,19,25日 カルフォルニア デ・アンザ・フリントセンター スタジオ録音)

サンフランシスコ響音楽監督のほとんど最後の時期の録音、フィリップスへの録音で「英雄」と同時進行で録音されました。小沢&サンフランシスコ響の録音は意外に少なく、このほかにグラモフォンに3枚程度の録音があるだけです。

1975年はアメリカ建国200年の記念の年で、6月にサンフランシスコ響は小沢征爾とともに来日していて、「新世界より」を中心としたプログラムで全国を回っています。
翌76年、黒人ティンパニ奏者の採用に関係する楽団との人種差別に絡む問題で、小澤征爾はサンフランシスコ響の音楽監督を辞任しています。

演奏は小澤色が前面に出たしなやかで自然な流れの演奏。第1楽章序奏ティンパニは2段打ち、第2主題はAABBのジムロック版使用。リピート有り。響きのバランスの良さは特筆もので第2楽章のコラールも見事に溶け合い、フォルティシモでも決して音が荒れることはありませんでした。第2楽章後半のコールアングレソロが出るあたりでテンポを多少速めていましたが、演奏全体では大きなテンポの動きはありません。

冷静な曲運びの譜面に極めて忠実、この曲のスタンダードとも言える演奏で、第4楽章最後の音などlungaの指定を強調したかったのでしょうか、気の遠くなるような長さでした。ただ、細部の彫琢にこだわるあまり、幾分緊張感を欠いてしまったような印象も受けました。

演奏はともかく、この録音は欠陥商品でして、第3楽章最初のリピート後の冒頭数小節間のティンパニが、なんとすっぽりと抜け落ちています。その結果、演奏に締まりがなくなり、なんとも間抜けな演奏となってしまいました。

ティンパニなしの練習時のテイクを使ってしまったのか、それとも始めからティンパニは別採りで後からミキシングでかぶせる予定が忘れてしまったのか、全く理解に苦しみます。

メジャーレーベルでも、1拍分消えていたり休符が飛んでしまったり、極端なものでは数小節飛んだりといったCDは珍しくないですが、特定のパートがごっそり抜けている例は初めてです。これは「新世界より」を知っている人ならば誰もが気が付くようなミスなので、出来上がった商品を発売前にチェックしなかったことがバレバレの珍品。

私が聴いたのはX7550 という日本フォノグラムの国内盤初出LPで、9500 001 2Y 4というマトリックス番号が刻まれています。発売当時にこのティンパニの欠落を指摘した音楽批評はなかったように記憶しています。ちゃんと全曲聴いて批評を書いていたのでしょうか。

なお、後に発売されたCDは修正されているそうです。
(2006.01.11)