「新世界よりを聴く」83・・・日本の指揮者たち4 小澤征爾その2
・ ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
(1991年5月25,26日 ウィーン ムジークフェライン ライヴ録音)

フィリップスから発売されているライヴCD。小澤征爾が始めてウィーンフィルを振ったのが1966年のザルツブルク音楽祭でした。それから実に20年以上経ってからのウィーンフィルとの初録音。

今ではニューイヤーコンサートに登場するほど小澤とウィーンフィルとの関係は親密ですが、1969年のザルツブルク音楽祭でのオペラ「コシ・ファン・トウッテ」の不評が祟り翌年5月の演奏会に一度登場した後、1982年まで小澤征爾がウィーンフィルの指揮台に立つことはありませんでした。伝統と格式を誇る定期公演へのデビューは1990年です。

この録音は1991年の定期公演のライヴで、当日は前プロとしてモーツァルトの交響曲第39番が演奏されました。小澤征爾との初録音が計画されていたためでしょうか、ウィーンフィル側はヘッツェル、キュッヒルの二大コンサートマスターが出演、他のセクションもベストメンバーで臨んだそうです。

ウィーンフイルの各楽器が溶け合った響きが実に美しく響きます。聴く前はあまり期待してなかったのですが、聴き進むうちに小澤の確信に満ちた音楽運びと、それに応えるウィーンフィルの気迫がひしひしと伝わってきました。

そろりとした開始の第1楽章序奏、22小節めのティンパニは2段打ち。主部ホルンに同調する弦楽器は非常に美しく動き、自然な流れの中にティンパニのアクセントが全体をぴしりと引き締めています。リピート有り。第2主題直前145小節で弦楽器が美しく緩いカーヴを描きながら第2主題に突入するのが印象的。続く第2主題はBBBB型のウィーンフィル独自の版。ただし第4楽章92小節のトランペットは他のウィーンフィルの演奏で聴かれるソ−レでなくジムロック版と同じシ−♯ファ。

第2楽章コラールのティンパニは楽譜指定のffでなくpで入ってきます。弦のなんという美しさ。26小節のfからpへのデクレシェンドの減衰加減も絶妙。オーボエの早いパッセージ前87小節のチェロの装飾音強調は初めて聴く解釈。

第3楽章はいささか平凡。第4楽章は切れ目なしに突入、最大限に鳴り切り熱く燃えるオケ。最後の音を極端に伸ばすのはサンフランシスコ響との録音と共通の解釈。
本気が出た時のウィーンフィルの凄さが満喫できる名演。ただ、小澤征爾よりもウィーンフィルの個性が色濃く出た演奏だと思います。
(2006.01.14)